経理という職種は会社の大切なお金を預けている社員なので、経理担当者に絶大な信頼を置いている経営者の方が多いのではないのでしょうか。
巨額な契約金については経営者本人が管理しているケースもありますが、中には少額、高額に関わらずすべてのお金を経理担当者に管理させている会社もあります。
しかし、残念なことに経理担当者が会社のお金を横領してしまう事件は少なくありません。そして、経営者から信頼をおかれて一任されているために横領が発覚した時にはすでに取り返しのつかないような巨額のお金が横領されて使い込まれていることもあります。
経理担当者による横領は手口が巧妙になりやすく発覚するのも難しいですし、横領が発覚してもどのように対応していいかわからない方も多いと思います。
そこで今回は、経理担当者によるよくある横領の手口や横領してしまう心理、横領が発覚した時の正しい対応方法について解説していきます。
社員の横領や不正行為を未然に防ぐのも経営者としての責任
経理担当者の横領する心理や手口、横領発覚後の対応方法についてご説明する前に、前提として知っておいてほしいことがあります。
それは、「経理担当者に限らず、社員の横領や不正を未然に防ぐことも経営者の重要な仕事であり責任である」ということです。
信頼している社員がまさか横領するとは普段あまり考えていないと思うので、横領が発覚したときにはすでに被害額が多額にわたることも多く、横領されたお金を確実に全額回収できるとは限りません。
また、横領事件を起こした経理担当者は解雇したりポジションをはずしたりという対応を取ることになると思いますが、そうなると新しい経理担当者を採用しなおす必要も出てきて採用コストも余計にかかってしまいます。
もちろん、一番悪いのは横領をしてしまう経理本人なのですが、横領や不正を起こさせないための仕組み作りや体制を整えることも会社を健全に運営していくにあたって非常に重要な経営者の任務だと言えるでしょう。
経理担当者が横領をしてしまいやすい心理とは
横領を起こす社員の多くが経理担当者であるとも言われていますが、なぜ経理が横領を起こしてしまいやすいのでしょうか。その心理にはどのような要因が隠されているのでしょう。
目の前に自分が管理しているお金がある
経理担当者の人たちは、会社のお金の流れを把握してそのお金を動かすことを仕事としています。
経理として会社のお金を扱っていると、普段目にすることのないような大金を扱う機会も多くなり、大金を当たり前のように送金したり受け取ったりすることに感覚が麻痺してしまうのです。
そして、麻痺してしまうほどの大金を動かすことに慣れてしまうと、そのお金が会社のもので自分は操作を任されているだけ、自分のお金ではないという感覚が薄れてしまい、「会社のお金」という認識から「自分が管理していて自由に扱えるお金」という認識にシフトしてしまうのです。
このような認識のシフトが起きてしまうと、横領という意識を持たないままに多額のお金に手を付けてしまうようになるのです。
バレない自信ができる
経理担当者は会社のお金の管理だけでなく、お金の流れやどのフェーズで誰がどのようなチェックを行っているかということまで把握していることが多いです。
そのため、「どうすれば横領がバレないか」ということまで考えられてしまうようになります。
また、最初のうち少額の横領を実践してみて、本当に周りの社員たちが気付かずに横領がうまくいってしまうと、ますます横領してもバレないという自信を持ってしまうことになります。
経理担当者だからこその絶大なる信頼を置いているからこそ起きてしまうことなのですが、それを逆に利用した結果起きてしまう横領ということです。
経理業務を一人or少人数で担当している
横領が起きてしまう最も多い状況は、経理担当者が一人もしくは少人数で業務を担当しているというケースです。
大企業などで複数の人が経理業務に関わっていて、一人ではお金を動かせない仕組みが整っていれば横領事件も起こりにくいのですが、実際、中小企業などでは経理の一連の業務を一人だけで行っていることが少なくありません。
送金や請求書などを複数の人間が分業することでお互いを監視することができますが、お金の流れをすべて1人の経理担当者が処理している場合だと、もし横領をしても誰かに気づかれるリスクが低くなり、発覚した時には巨額のお金が被害に遭っていることにもなりかねないのです。
経理担当者は実際どのような手口で横領を行っているのか
経理担当者に信頼を置いている経営者は多く、だからこそ会社の大切なお金を任せているのですが、その信用を逆手にとって横領を行っているケースが多いのです。
では、実際にどのような手口で横領をしているのでしょう。
会社の口座から不正に送金
会社の口座の管理も任されているという経理の立場を利用して、会社の口座から直接自分の口座へ振り込んだり引き出した現金から着服したりする手口もあります。
この手口をされてしまうと、被害額が一気に跳ね上がってしまうでしょう。特に最近ではオンライン決済が主流になってきているので、経理の人が一人でネット上で行うことができ、不正に気付けずに横領を見逃すケースもあります。
経理担当者が通帳を見せたがらなかったり、すべて一人でやろうとして他の人に任せたがらなかったりと少しでも違和感を持ったら、探偵など調査機関に依頼して経理担当者の行動調査を依頼するようにしましょう。
売上金の着服
売上金などの現金を確認する際に、そこから少しずつ着服するという手口です。
最初は数百円、千円のように、気が付かれてもスルーされやすいくらいの金額から着服していきますので、経営者が知ることはほとんどないでしょう。しかし、それに味を占めてしまうとどんどんやり方が大胆になっていきます。
ごまかせないくらいの数万円のお金を着服して、帳簿上で帳尻合わせをしたり、お金を着服した後、「盗まれた」といって騒いだりすることもあります。
業務に影響が出ないような少額な金額であっても少しでもずれていれば警戒するべきですし、こまめに帳簿をチェックして不審な点があれば追及しておくことが大切です。
請求書の偽造
お金の送金や出金を決めるための重要な書類を偽造することで横領を行うのも経理によくある手口です。
偽の請求書を偽造して契約金を横領したり、他の社員から提出された請求書に金額を上乗せしてその差額を横領したりという思い切った手口で横領する社員もいます。
経理業務を一人だけに任せていると、大胆に請求書を偽造するなどしてもなかなか周りの社員は気付くことができず、被害額も大きくなってしまいます。そのため、経理の横領を防ぐためには一人だけではお金を動かせないような仕組みを作ることや、チェック体制を見直して強固にすることが重要となるでしょう。
経理担当者による横領を疑ったらどのように対応すべきか
「経理担当者の行動に違和感がある」「会社のお金の動きに不自然な点がある」と横領を疑った際にはできるだけ早く対応していくことが大切です。
特に、経理が横領するときには周りにバレないように巧妙な手口で行われますので、横領の証拠を見つけるのはかなりハードルが高いです。専門的な知識やスキルを持った専門家の手を借りながら適切に対応していくことが大切です。
銀行に依頼して履歴を確認
会社で横領被害が起きているかもしれないと疑ったら、まずは取引銀行に相談し、履歴を確認してもらいましょう。そして、経理担当者の様子など銀行からの証言も入手しておくことで証拠とすることもできます。
そして、明らかに不自然な出入金の履歴があった場合には、必ず履歴のデータを出してもらい、銀行の証言も音声データとして残しておくことで後に重要な証拠として使うことができます。
探偵に疑わしい社員の身辺調査を依頼
経理担当者の様子がおかしい、横領しているかもしれないと感じたら、探偵に身辺調査を依頼するのも有効な方法です。
また、横領が発覚しそうだと感じた社員は逃亡するケースも多いため、行方不明になって探し出せないということも少なくありません。そのようなときに探偵に相談すれば、経理担当者の居場所と横領の証拠を取ってもらえますので、法的に訴えたい場合にも有効です。
もし、横領を決定付ける直接的な証拠がなくても、経理担当者の身辺調査をすることで、共犯者の存在が見えてきたり、お金の流れが見えてきたりすることもありますので、まず探偵に状況の相談だけでもしてみることをお勧めします。
税理士に相談してチェック
経理担当者が帳簿上で操作してごまかしている場合、会社として本来は支払わなければいけいない税金などが支払えていないこともあります。
申告漏れとなると、最悪の場合、会社の経営自体にダメージを与えてしまうこともありますので、横領が疑わしいと感じたら、税理士に帳簿やお金の流れを詳しく確認してもらうのが安全でしょう。
横領を行った社員の処分を検討する
横領をした社員をそのまま会社に残しておこうと思う経営者の方は少ないでしょう。信頼していたのを裏切られたという気持ちから怒りと悲しみですぐにでも解雇したいと考えるのも仕方のないことだと思います。
しかし、横領という犯罪を犯したからと言って安易に懲戒解雇してしまうのはリスクも伴います。現在の日本では労働者はかなり守られた存在のため、解雇のハードルが非常に高いからです。だからといって、処分をしないとなると、他の社員への示しもつきませんし、横領事件が再発してしまう可能性も出てきます。
そのため、横領をした社員へはどのような処分が適切なのか、解雇することはできるのか、解雇するためにはどのような証拠が必要になるのかについて、しっかりと弁護士を交えて吟味していくことが重要です。
参考記事:社内で横領が起きた場合の初期対応と流れ|当該社員への3つの処分
社内で横領が起きた場合の初期対応と流れ|当該社員への3つの処分
社内で横領が起きた場合の初期対応と流れ|当該社員への3つの処分
参考記事:諸悪の根源!問題社員を辞めさせる具体的な方法と注意すべきポイント諸悪の根源!問題社員を辞めさせる具体的な方法と注意すべきポイント
まとめ
経理担当者は信用を置いている社員を選んでいることがほとんどなので、その絶大な信頼を置いている社員に横領され裏切られたとわかったら、そのショックは相当なものになるでしょう。
しかし、会社の経営者として、これ以上被害が大きくなる前に、そして、横領を起こした経理担当者に逃げられてしまう前に、適切に対処して会社を守らなければなりません。
経理担当者の調査については、なるべく早く行動を起こして身辺調査を依頼することが大切です。経理担当者本人が逃亡してしまうリスクもありますし、証拠隠滅を図られることも考えられますので、相手に怪しまれることのないよう独自に調査を行うのではなく、プロに任せて調査を行ってもらうようにしてください。
犯人に逃げられたり証拠を隠滅されたりするとさらに問題解決のためのコストがかかってきてしまいますので、経営者の負担をできるだけ減らすために、そして横領事件を早期に解決するためにも、専門家の力を借りながら適切に対応していくようにしてください。