後を絶たない業務上横領のよくあるケース|被害が少額でも放置は厳禁

業務上横領とは、簡単に言えば会社のお金やお客様からのお金を使い込むことを言います。

 

業務上横領事件は年間1,000件以上発生していて、中には数年にわたって横領を続け、総額1億円以上ものお金を横領した社員も存在しています。

 

業務上横領事件は大企業で起きた時に大きなニュースになるので、大企業に起こりやすい事件だという印象を強く持っている人も多いのですが、実際には中小企業での業務上横領事件が後を絶たないのが現状です。

 

横領される金額によっては倒産にまで追い込まれかねないため、経営者としては横領への備えや横領が起きた時の対策をしっかりと把握しておくことが重要です。

 

そこで今回は、業務上横領についての基本的な知識や、企業内で起こりうる業務上横領のよくあるケース、そして万が一自社内で業務上横領が起きてしまった場合の対応策について解説していきます。

 

なお、今現時点で横領について少しでも怪しいと感じる場合は、できるだけ早く専門家に相談して適切に処置していくようにしてください。

 

業務上横領とは

業務上横領とは、「業務上」「自己の占有する他人の物」を「横領」することを指します。わかりやすくいうと、冒頭でもお伝えしたように、会社のお金やお客様からのお金を勝手に使い込むことを言います。

 

ここでは、業務上横領についてより詳しく基本的な部分について解説していきます。

 

横領罪の種類

横領罪には【単純横領罪】【業務上横領罪】【遺失物等横領罪】の3種類の罪があり、他の人の物を手にするに至った事情や管理の性質の違いなどによって区分されていきます。

 

それぞれ簡単に見ていくと以下のようになります。

 

【単純横領罪】

【単純横領罪】

自分が管理している他人のものを自分のものとして売る場合に成立します。たとえば、友人から借りている本や道具を許可なく勝手に売ってしまった場合がこの罪にあたります。

 

【業務上横領罪】

自分が仕事上管理している会社のお金や顧客から集金したお金、物などを自分のものにしてしまう場合に成立する罪です。

 

【遺失物等横領罪】

これは文字通り落とし物などを勝手に自分のものとした時に成立する罪です。

 

今回の記事では、横領の中でも企業に関係のある業務上横領罪について詳しく解説していきます。

 

業務上横領の成立条件

業務上横領にあたるかどうかの成立要件は以下の4つです。

 

・横領した

・業務性がある

・占有が委託信任関係に基づいている

・他人の物である

 

業務上横領は「業務」で預かった他人の物を不法に自分のものにしたときに成立する犯罪なので、業務上の立場があってはじめて成立する犯罪です。よくある例でいえば、会社の経理担当者が「経理」という業務上の立場を利用して会社のお金を着服するからこそ「業務上」横領罪が成立するということです。

 

業務上横領の刑の重さ

業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役と刑法253条で定められています。一方、単純横領罪の法定刑が5年以下の懲役と定められています。

 

業務上横領は、仕事としてお金や物の管理を任されているという関係にある分、その責任に反して横領してしまうと、単純横領罪よりも重い罪責を追うことになるのです。

 

なお、たとえ横領した金額が少額であったとしても業務上の着服があれば業務上横領であることは変わりません。

 

ただし、横領の前科があったり、方法が悪質であったりするケースをのぞき、横領した額が少額の場合は基本的に刑罰が軽くなる傾向にあります。実際、業務上横領の金額が200万円未満で、本人が業務上横領の事実を認めている場合などは在宅事件として扱われ逮捕されないケースも少なくありません。

 

企業内で起こりうる業務上横領とは|ケース別の事例紹介

業務上横領は大企業、中小企業に関係なくどこの企業でも起こりうる事件ですが、どのような状況で横領が起こりうるのでしょうか。

 

ここでは、よくご相談を受ける横領事件のケースについて見ていきます。

 

出張費の不正受給

出張費を不正に受け取ることはれっきとした横領です。

 

空出張、つまり実際には出張していないにもかかわらず、経費で私用の旅行に出かけたり、切符代や宿泊費を払い戻して自分のお金として着服したりするケースが考えられます。

 

交際費の着服

取引先など社外の人との接待で飲食をする際に交際費として会社から受け取ることはよくあると思いますが、実際にはそのような接待がなかったにも関わらず、自分だけで、もしくは社内の人間だけで飲食し、接待だと偽って交際費として計上するのは業務上横領に当てはまります。

 

交通費の不正受給

意外に多くの社員たちが行っているのが交通費の着服です。実際の交通費よりも高額な交通費を請求し不正に受け取ることは業務上横領に該当します。

 

備品を盗む

会社の備品を盗む場合も業務上横領に当てはまる場合があります。例えば、個々人に支給または貸与されて自分が管理しているパソコンや携帯電話、文房具などを勝手に自分のものとする場合は業務上横領に該当します。

 

一方、コピー用紙やトイレットペーパーなど自分が管理しているわけではないものを勝手に自分のものとした場合は窃盗罪になります。

 

業務上横領を起こす犯人はどのポジションの従業員が多い?

経営者としてはすべての社員のことを信用したいと思うと思いますが、業務上横領を起こしやすい社内でのポジションがあることは事実です。

 

では、どのポジションについている社員が業務上横領を起こしやすいのでしょうか。根拠もなく常に疑う必要はありませんが、これらのポジションにつく人材を選ぶ際は、いつも以上に慎重に見極める必要があると言えるでしょう。

 

集金も兼ねる営業担当

特に中小企業に多いケースですが、商品の代金を振り込みや引き落としではなく、直接営業担当が集金に向かう方法と取っている会社も少なくありません。

 

そのような集金も担当している営業マンが顧客から集金できたお金を横領し、会社には、未収金として報告するというケースがあります。

 

店長や支店長

信頼して店舗を任せている店長や支店長が横領するケースもあります。実際の売り上げよりも少なく見積もった金額を会社に売上額として申告し、その差額を横領するのです。

 

経理担当

経理担当者が会社のお金を使い込むという事件はニュースでも目にしたことがある人も多いでしょう。

 

経理担当が会社の預金口座から自分の口座に振り込んで横領するケースや、共犯者に架空の請求書を出してもらい、会社の預金口座から共犯者の口座に送金した後に山分けするケースなどが多数報告されています。

 

横領した額が少額の場合はどうなる?

横領された被害額が100万円以下の数十万程度などの比較的少額の場合の対応としては、被害額がより大きな場合と比較して刑が軽くなる傾向にあります。

 

ただし、もともと横領の前科があって反省が見られない場合や、金額が少額であっても横領の手口などが悪質である場合は刑が重くなります。

 

被害に遭った企業として知っておくべきこととしては、横領の金額が少額であったとしても横領は横領ですし、横領は再発性が高い犯罪ですので少額だからと言って放っておくことは非常に危険ということです。

 

再発性が高い、つまり常習性があるということは、少額の横領を繰り返し行うということですので、数年にわたって横領をし、最終的に会社に大きなダメージをもたらすほどの金額を横領する可能性があるということです。

 

中小企業の中には、社員による繰り返しの業務上横領が原因で、倒産にまで追い込まれてしまう企業も存在しますので、少額だからと軽く考えたり、見て見ぬふりをしたりするのは絶対に辞めましょう。

 

社内で業務上横領が起こっていると判明したらどう対応すればいい?

高額、少額に関わらず、自社内で社員による業務上横領が起きてしまうことはどの企業にも起こりうることだということはすでにご説明した通りです。

 

では、万が一自分の経営する会社で業務上横領が起きていると判明したらどのように対応していくのがベストなのでしょうか。ここでは、業務上横領が起きた場合の対応方法について解説していきます。

 

横領の証拠を掴む

まずは、横領の事実確認と被害の証拠を掴みましょう。可能であれば、横領の犯人を特定できる証拠も押さえておくのがベストです。

 

証拠については、誰もが納得できるような客観的な証拠である必要があるので、素人ではなかなかつかみにくいかもしれません。そのような場合は、専門の調査会社に調査を依頼して横領の証拠や犯人を特定できる証拠を押さえておくようにしましょう。

 

社員への処分を検討する

業務上横領を起こした社員に対して処分を検討していく必要があります。処分としては、懲戒解雇をはじめ、降格や出勤停止などがありますが、業務上横領の被害金額や手口の悪質性によって判断していくこととなります。

 

なお、懲戒処分を行う際は、就業規則において会社が一定の場合に労働者に懲戒処分をすることができる旨の規定を設けていることが前提になりますので、処分を行う前に就業規則の確認は必須になります。

 

また、業務上横領をした社員は辞めさせるべきだという考えになりやすいのですが、懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も厳しい処分です。特に、業務上横領が少額の場合は懲戒解雇が裁判で認められない可能性も高いので、処分を検討する際はどの処分が妥当かどうか十分に吟味していくようにしましょう。

 

参考記事:社内で横領が起きた場合の初期対応と流れ|当該社員への3つの処分

 

弁護士に相談する

懲戒処分をどれにするべきか判断が難しい場合や、犯人である社員が横領の事実を認めていない場合などは、弁護士に相談して進めていくという方法も有効です。

 

横領されたことに対しての損害賠償請求や、横領されたお金をより確実に回収するための身元保証書の作成などは専門的な知識がないと手続きが困難ですので、法律の専門家である弁護士に依頼したほうが確実でしょう。

 

参考記事:従業員による横領が発覚したときに取れる法的対処法と具体的な流れ

 

金額によっては警察に相談する

業務上横領の金額がとても少額とは言えないような場合には、警察に相談するという選択肢もあります。ただし、警察は横領の証拠や犯人を特定できる証拠がない場合、横領事件の立件に及び腰になっていることが多いので、詳細な証拠を揃えておくほうがスムーズに対応してもらえるでしょう。

 

警察に横領事件として立件してもらうためにも、調査会社に証拠収集の調査を依頼することをお勧めします。

 

まとめ

企業内で横領事件が起きた場合、犯人である社員に対して懲戒解雇を含めた懲戒処分をすることや、民事上の損害賠償請求、刑事告訴などの方法で解決していくことになります、何らかの処分をする場合は、十分な調査や証拠、横領の被害金額を確定することが重要になってきます。

 

企業内で横領が起きてしまうと企業にとって経済的な損失はもちろん、調査や処分の検討などにリソースを割かれてしまう可能性がありますし、企業自体の信用を失ってしまうリスクもあります。

 

業務上横領の事実に気が付いた段階でできるだけ早めに対応策を打っていくことが何より重要で、信頼できる専門家に相談することで冷静に対処していくことができるでしょう。