KW経理は会社を運営していくうえで最も重要な会社のお金を管理し、企業活動で発生するお金の動きの情報をすべて把握し管理する重要なポジションです。
会社のお金を管理する部署なので、経営者が信頼を置いている人物にしか任せないポジションですが、時に経理担当者が不正を行い会社のお金を着服してしまうことがあります。
そこで今回は、経理担当者の不正行為でよくあるパターンや、不正を防ぐためのコツ、そして万が一経理担当者による不正が発覚した時に企業として取るべき対応について解説していきます。
経理の不正は当たり前!?話題になった経理の不正事例
よくニュースで経理担当者が億単位のお金を横領していたなどという驚きの報道を目にしますが、実際には報道されないような経理による不正事件はたくさん起きていて、報道されているのは氷山の一角です。
お金を扱う部署である経理部の不正行為はいくら万全に体制を整備しても、100%防止することはできず、どこの会社でも起こりうることなのです。経営者としては「自分の会社でも不正行為が起こる可能性がある」ということをまずは認識する必要があるでしょう。
最近の経理による不正行為の事例としては以下の3つが挙げられます。
岸運輸のケース
兵庫県伊丹市にある岸運輸という会社で20年以上経理を担当していた女性経理社員が横領し、その被害金額はトータルで10億円以上と言われています。
彼女の横領の手口としては社員の給与を水増しして引き出させ、毎月数百万円を持ち帰るというやり方で領収書を改ざんして横領した金額を隠していたそうです。
ネッツエスアイ東洋株式会社のケース
神奈川県川崎市にある、自動券売機の開発などの事業を行っていた会社で、経理部のマネージャー職をしていた社員が約15億円を横領した事件です。
不正の手口は小切手の二重振出や不正な裏書きによる現金化というとても単純なやり方だったため、なぜ15億ものお金を横領されるまで発覚しなかったということが問題視されました。
単純な手口で不正が起きているにも関わらず被害金額が大きくなってしまったのは、長年にわたって経理部のマネージャーを信用して任せっきりにしてしまっていたことが一番の原因と考えられています。
愛知高速交通のケース
「リニモ」を運営する第三セクターの「愛知高速交通」で出納責任者として名古屋鉄道から出向中だった男性社員が約9000万円を横領した事件です。
男性社員は名鉄から愛知高速交通に、出納責任者である総務部総務課主幹として出向していて、その期間に管理している預金通帳と銀行印を使って約1年の間、計55回にわたり、リニモの運賃収入などを管理する2つの銀行口座から合計約9000万円を引き出したとされています。
このケースでも、チェック体制が甘かったために不正の発覚が遅れていて、本来は上司である総務部長が月1回、預金通帳の出入金状況をチェックする決まりだったのですが、犯人である男性社員に任せっきりにしてチェックを怠っていたことが一番の原因とされています。
なお、経理による不正行為が発覚するきっかけはごく平凡な日常の業務の中で持つ違和感からというケースがとても多いです。なんとなく引っかかる帳簿の動きや、取引先から金額の間違いを指摘する電話がかかってくる、ゴミ箱に見慣れない発注書がある、など、些細な違和感を見逃さないことが不正の早期発見につながります。
経理担当者の不正行為で多いパターン
経理担当者による着服などの不正行為は珍しいことではなく、どこの会社にも起こりうることですが、手口そのものはたくさんあるわけではありません。
経理による不正行為のパターンとしては以下の3つのパターンが多く見られます。
・口座を作って不正に入金
・発注書を偽造する
・不正に振り込む
取引先を装った口座を作り、それらしい契約書を作成して不正に入金するケースがとても多く、一人の経理に任せっぱなしの会社によく起こるケースです。
また、外部に不正の仲間がいて、実際の取引先のように振る舞い、発注書を偽造して商品の代金と称して不正に振り込むケースもあります。
いずれのパターンも、一度の入金や振り込みでそこまでの大金が動くことはなく、経営者としてはあまり気に留めないレベルの金額が着服されていきます。しかし、それが数年にわたって続けられることによって企業の運営にも影響が及ぶほどの被害になってしまうのです。
このような不正行為は一人の担当者に任せっぱなしな上に、印鑑や通帳なども預けていると経理担当者に魔が差した瞬間にそのような不正が起きてしまいます。
経理担当者の不正を防ぐためのコツ
どれだけ従業員による不正行為を未然に防ごうと策を講じていても着服などの不正行為は完全に防ぐことは難しいです。
しかし、経理担当者による不正行為をできる限り防ぐためのコツはあります。また、これらを実践することで、たとえ不正行為が起こってしまってもすぐに気が付くことができ、被害を最小限に抑えることができます。
この章では、不正行為を防ぐコツをご紹介していきます。
会計ソフトなどを導入する
経理担当者の不正を防ぐうえでとても効果が期待できるのが、クラウド会計ソフトや経費精算システムを活用するという方法です。
これらのシステムを上手に活用する事で、人の目では気付かないような小さな事でも異常として検出してくれるため、経理の不正を抑止することにつながります。
また、クラウド会計ソフトを取り入れる事によって、銀行口座を紐づけすることができるので、通帳に記載されていた取引履歴を手入力で会計ソフトに打ち込む作業をしなくても済むようになり、自動的に口座情報がクラウド会計ソフトへ反映されるようになります。
そのため、もしも経理担当者がインターネットバンキングで不正出金を繰り返していたとしたらすぐに気づくことができるようになり、不正を防止できるのです。
クラウド会計ソフトを活用すれば、銀行口座との紐づけだけでなくPOSレジや請求管理ソフトとの連携も可能なので、店舗におけるレジ作業中にお金を着服する不正や取引先へのキックバックによる着服も防止することができます。
会計ソフトの生データを確認する
経営者自身が会計ソフトの生データを確認することも極めて重要です。データ一つ一つをなんとなくでもいいので眺めてみましょう。
交際費、経費、消耗品費などを含めて、会社の大切なお金がどのように動いているのか、実際の取引をイメージしながら見ることがポイントです。
お金の動きを確認して、取引そのものがイメージできなかったり、違和感があったりしたら、不正が起きている可能性があるということを認識しておいてください。
ただし、経営者は経理の仕事のチェックのほかに膨大にやらなければならない業務があると思いますので、すべての細かい取引やデータまですべてを確認することは現実的ではありませんし、長続きしないので、「5万円以上の取引を見る」などと決め、金額が大きいものを中心にチェックしましょう。
違和感を持ったらすぐに質問する
会計ソフトのデータを確認していて「このお金は何?」「なんでこんなに高額なの?」と少しでも違和感があればすぐに経理担当者に質問してください。
特にベンチャー企業や中小企業の経営者の方は営業出身やマーケティング出身の方が多いので、「経理業務の専門知識があるわけではない自分が口出ししていいのか」と少し気が引けてしまうこともあるかもしれませんが、経理の不正を発見するきっかけはちょっとした違和感があったために調べてみたら発覚した・・・ということも少なくありません。
データを見て違和感があったり、現実の取引がイメージできなかったりしたら、どんどん質問してみてください。経理担当者の説明に納得ができなければさらに詳しい調査をしていけばいいのです。
また、定期的に経営者から会計データについて質問されるという職場環境になっていれば、経理担当者への牽制にもつながり、不正を予防することにつながります。
経理業務を複数の社員で担当する
経理担当者の不正を防ぐうえで最も効果的なのは経理業務を一人だけに任せず複数の社員で担当するという方法です。
通帳の原本を複数人でチェックする体制を作っておいたり、出金と記帳の担当者を分けたりするだけでも不正が起こりにくくなります。
ただし、人員的に余裕のある大企業ならこのような方法は可能ですが、中小企業やベンチャー企業などの少数精鋭で経営していている企業においては現実的に難しいかもしれません。
そのような場合には経理担当者自体は1人だけれど定期的に担当者を変えるという方法もあります。定期的に経理担当者が変われば前任の人の方法で違和感を持ったら内部通報によって不正が発覚するケースもあります。
また、担当を定期的に帰ることで社内に会社のお金の動きを理解できている社員が増えていくので、長い目で考えると企業体制としても有利になるでしょう。
関連記事:従業員による着服等不正行為にどう対処すべき?不正回避の方法は?
こういう会社は経理の不正が起きやすい?不正が起こりやすい企業の特徴
経理による不正行為はどこの会社でも起こりうるということはすでにお伝えしていますが、その中でも不正行為が起きやすい企業の特徴というものがあります。
どのような会社、そしてどのような社内体制の場合に不正行為が起きやすいのでしょうか。
経理業務を1人の社員にさせている
今回の記事でも何度かお伝えしましたが、経理業務を一人の担当者に任せっぱなしにしていると不正行為は起こりやすいです。
自分以外、誰もお金の管理やデータのチェックをしていないとなると、少しでも魔が差してしまうタイミングで会社のお金に手を出してしまいます。
実際の業務は一人の担当者に任せてもいいですが、毎日会計ソフトのデータをチェックしたり、入金、振込は経営者の確認なしではできないような仕組みにするなどしたりして複数の社員が経理の状況を把握できる体制にしておくことが大切です。
経理担当者に絶大な信頼を置きすぎている
中小企業やベンチャー企業、スタートアップ企業などの場合、経理担当者は経営者の右腕になるような信頼できる人物を配置していることが多いでしょう。
会社の大切なお金を任せるわけですから、一緒に会社を立ち上げたような全幅の信頼をおける人物に任せることが多いです。
しかし、そのような信頼をおいている社員でも不正をする可能性はゼロではありません。
たとえば、信頼をおいていた経理担当者が実は借金まみれになっていて今すぐにでもまとまったお金が必要になっているような切羽詰まった状況であれば、「いつも自分を信用して何もチェックしてこないし、少しくらいお金をちょろまかしても大丈夫だろう」という考えが生まれても不思議はありません。
確かに、信頼している社員を疑うようなことはしたくないでしょうし、不正防止のために確認行為をされていると思われたら経理担当者も不快な思いをするかもしれませんが、そこは経営者本人が「経理担当者を信頼していることは大前提としてチェックしている」ということをきちんと伝えてあげれば問題ないでしょう。
経理部が社内で軽視されている
上の特徴と逆のパターンですが、経理部の業務が社内で軽視されているような企業も不正行為が起こりやすいです。
業界関係なく、経営者になる人は営業や技術など現場部門出身の方が多く、どうしても出身部門を優遇してしまいがちです。そして、経理部のことを「お金を計算して、データを打ち込んで、管理しているだけの部署だ」と思い込み、そのような態度で経理部に接したり、他の社員の前で経理を軽んじるような言動をしたりする経営者の方も存在します。
そのような職場環境では経理担当者のモチベーションは下がり、少しでも嫌なことがあると「いつも馬鹿にしてきている経営者や会社に仕返ししてやろう」という考えで不正に走ってしまうこともあります。
万が一経理の不正が発覚したら|企業として取るべき対応
では、実際に経理担当者による不正が発覚したらどのような対応を取っていくべきなのでしょうか。
不正の事実確認のための調査を行う
まずは不正行動の事実確認を行う必要があります。そして事実を解明していくためには、証拠の収集が欠かせません。不正行為の証拠としては、関係者へのヒアリングで得られる供述と、帳簿や手帳、口座のデータ、契約書類、電子メールなどの物的証拠があります。
不正調査の手順としてはまず物的証拠を入手してからそれをもとに関係者に聞き込みを行っていきます。物的証拠の収集はできる限り迅速に行うことが何より大切です。スピード感を持って収集していかなければ怪しまれていると感じた経理担当者が証拠を破棄したり、隠匿、改ざんしたりする可能性があるからです。
証拠収集を含めた不正調査は調査会社などプロに依頼するのが一番安全で確実でしょう。
不正の内容から社内処分を検討する
不正の事実確認ができ、証拠も集まったら経理担当者の社内処分を検討していきます。横領した金額や期間、悪質性によっても変わりますが、懲戒解雇や退職勧奨などの処分になることが多いでしょう。
ただし、行った不正行為に対して重すぎる処分をしてしまうと、逆に会社側が訴えられてしまうリスクもありますので、どのような懲戒処分が適しているかについては弁護士に相談しながら進めていくのが安全です。
刑事告訴や損害賠償請求を検討する
経理担当者がどれほどの金額を横領したのか、いつから横領しているのかによっても変わりますが、刑事告訴や損害賠償請求を検討していくことになるでしょう。
特に、横領されたお金はしっかりと取り戻したいと考えるはずなので、損害賠償請求については進めていくのがいいかと思います。不正を行った本人の所有資産を徹底的に調べ上げ、必要に応じて自宅や所有不動産、預金に対して仮差押手続を申し立てたうえで、話し合いをして損害賠償請求を行います。
話し合いでまとまらなければ民事訴訟を起こすという流れになっていくでしょう。
経理不正の再発防止策を考えていく
不正を行った経理担当者への処分や損害賠償請求などの対応が落ち着いたら、2度と経理による不正行為が起こらないように再発防止策についても考えていかなければいけません。
会計ソフトの見直しを行う、経理担当者を複数設置する、チェック体制を見直すなど、すべきことはたくさんありますので、一つ一つ改善していきましょう。
なお、実際に不正を行った本人に懲戒処分や損害賠償請求、刑事訴訟などの厳格な対応を取ること自体も再発防止につながりますので、情けをかけて処分を甘くしてしまうのはよくありません。不正に対しての処分を曖昧にすることは再発を促すことにつながる可能性もあるということはしっかりと理解しておくべきでしょう。
まとめ
信頼して会社のお金の管理を任せていたのに、その経理担当者が不正を行っていたとわかったら、裏切られたという怒りと悲しみから、つい感情的になって証拠もなくいきなり経理担当者を問い詰めたり、思い込みで処分したりしかねません。
証拠もなくいきなり感情的に問い詰めると、疑われているとわかって証拠を隠滅されてしまうリスクもありますし、思い込みで処分すれば会社が逆に訴えられかねません。
経理による不正が起きているとわかったら、まずは冷静になり、弁護士や調査会社など専門家に相談しながら適切に対処していくことが大切です。