KW会社を経営している中で、取引先を新規で開拓したり、既存の取引先との取引を増やしたりなど、販路を増やしていくことは数多くあるでしょう。事業を拡大し、会社を大きくしていくためには必要不可欠な行動ですが、時には「取引先が代金を支払ってくれない」という未払い金のトラブルに巻き込まれることも珍しくありません。
取引先と金銭トラブルになってしまうと、解決するためには時間的にも精神的にも大きなエネルギーが必要となってしまいますし、企業の規模によっては金銭トラブルで経営が悪化して倒産の危機に追い込まれる可能性もあります。
健全な会社経営においては、取引先との金銭トラブルをできるだけ起こさないことや、万が一金銭トラブルになってしまったときに適切に対処できる知識を身に付けておくことが重要です。
今回の記事では、取引先との金銭トラブルを未然に防ぐ方法や、金銭トラブルになってしまった場合に取るべき手段、そして最終手段としての法的手段を使った解決方法について解説していきます。
取引先との金銭トラブルを防ぐために
一度でも取引先と金銭トラブルになってしまうと、その解決のために会社の貴重なリソースが使われてしまうことになりますので、通常業務にも差支えが出てしまう恐れがあります。
そのため、金銭トラブルはできるだけ未然に防ぐことが重要です。では、どのようなことに気を付けていればいいのでしょうか。
取引してもいい企業かどうか見極める
販路を広げ、事業をできるだけ早く拡大していきたいと考えると、ついつい焦って取引先を増やしてしまいがちですが、金銭トラブルを未然に防ぐためには、取引を開始してもいい企業なのかどうかをしっかりと見極めることが重要です。
特に、ベンチャー企業など立ち上げたばかりの会社では、早く売り上げを安定させなければという思いから、相手の企業の経営状況を深く調べずに取引を開始してしまい、未払い金のトラブルに巻き込まれるケースが非常に多いため、注意が必要です。
経営状況は良好なのか、相手企業の企業内で社内トラブルは起きていないか、今後未払いの発生が起きる可能性はないか、などを事前にしっかりと調査しておきましょう。相手企業の調査に関しては、専門の企業調査会社や企業調査を専門としている探偵事務所に依頼するのがより確実に調べることができて安心です。
取引先に対しての調査は、一度やって終わり、というのではなく、既存の取引先であっても定期的に行うのが望ましいです。取引を開始した当初は経営がうまくいっていても、だんだんと経営が悪化してしまい未払いの危険性が出てくることは珍しくありません。会社を守るためにも定期的に調査を行うようにしてください。
金銭トラブルを想定した契約を行う
取引してもいいかどうかを見極めることができたら、契約においても注意深く進めていくようにしましょう。取引先との金銭トラブルは、どれだけ注意していても100%防ぐことは難しいため、トラブルを想定した契約を交わし、万が一の時にできるだけ被害が小さく抑えられるようにしておくことが大切です。
金銭トラブルを含めた様々なトラブルが起きることを想定したうえで、取引先と契約書を交わしておきましょう。その際、お互いの解釈が違っていたり誤解が生じたりすると、後々厄介になってしまいますので、それを防ぐために企業法務を専門とする弁護士のアドバイスを受けることも検討しておくと良いですね。弁護士に確認してもらい、きちんと各条項を吟味して契約書を作成しておいてください。
取引先と金銭トラブルになってしまった場合に取るべき段階的手段
取引先とのトラブルは、どれだけ慎重に契約を進めていても、運悪く巻き込まれることもあります。そうなった場合に備え、対処方法や取るべき手段についてしっかりと理解しておきましょう。
金銭トラブルになってしまい、未払い金が発生すると、「裁判で売り上金を取り返さなければ!」と考える経営者の方も多いのですが、裁判を行うとなると、費用はもちろんのこと、時間もかなり必要になりますので、まずは法的手段以外の方法で段階的にステップを踏みながら解決を目指しましょう。
まずは話し合い
取引先との金銭トラブルとしてよくあるのが、こちらから請求書を送付しているにも関わらず、予定の期日になっても入金されていない、という状況でしょう。
この場合、まずは話し合いによって支払いを行ってもらうということから始めてください。直接担当者の方に会ったり、電話をかけたりして話し合いを進めていきます。この際、前もってメールを送っておくと期日や金額などの詳細を相手も確認しやすくなります。
もし、未払いが起こってしまっている原因が、支払い期限を勘違いしていた、請求書を確認できていなかった、単純に支払いを失念していた、などであれば、未払い金があることを伝えるだけで問題は解決します。手違いで請求書が届いていないという可能性もあるでしょう。
そのため、あくまでも「お支払いをお忘れではないですか」というソフトに尋ねるというスタンスを取るようにしてください。
取引先との関係性によっては、こちらから強く催促できない場合もあると思いますので、その場合は前もって弁護士に相談しておき、万が一に備えておくのもありでしょう。
なお、未払い金があることを伝えるメールの文面は以下のように作成すると、相手にも嫌な印象を与えず丁寧に伝えることができます。
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いつも大変お世話になっております。株式会社●●の〇〇です。
先日納品させていただきました商品の代金のお支払いに関しまして、令和4年▲月△日にご請求書をお送りさせていただいておりましたが、本日お支払いの締切日となっておりました。弊社で確認させていただきましたところ、未だご入金いただけていないようでございます。
大変失礼ではございますが、ご確認いただけますと幸いです。なお、本メールと行き違いにご入金いただいておりましたら悪しからずご容赦願います。
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あくまでも相手に非があるような印象を与えないよう意識して文面を作成し、メールを送った後に電話連絡をする流れが良いでしょう。
内容証明郵便での催促
話し合うことで未払いの代金を支払ってもらえることになったのに、待てど暮らせど入金されない、再度請求書を送ったのに一切の反応がない、という場合は内容証明郵便での催促を行いましょう。
内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を、誰が、誰宛てに出したのか」を、郵便局が証明してくれる公式の文書です。
内容証明郵便そのものには法的拘束力はありませんが、相手に本気であるというプレッシャーを与えることができます。内容証明郵便が送られてきたら「支払わなければ、裁判を起こされてしまうかも」と圧力をかけることができますので、取引先に支払うことができるお金があればすぐに支払ってくれることも多いです。
そのほかにも、内容証明郵便を活用することで後々、裁判になった場合の証拠として使うことができます。そのため、作成するにあたっては請求の根拠の明示、支払い期日など、必要事項をしっかり記しておく必要があります。
未払金の債権は民法や商法によって消滅する時期が定められています。のんびりかまえていると、支払う気のない取引先に時間を引き伸ばされて、時効になってしまったという可能性もありますので、できるだけ早く対処していくようにしましょう。内容証明郵便は、この時効を6ヵ月中断することができますので、その意味でも活用していくといいですね。
代物弁済
取引先に支払能力がないために支払いが滞っている場合は、代金を支払ってもらうかわりに、商品などで支払ってもらうという方法があります。取引先が所有している換金可能な物を本来支払ってもらうべきお金と相殺するという方法で解決することもできます。
取引先にそのような換金可能な所有物があるかどうかは、一般的に把握することは難しいと思いますので、取引先への調査として調査会社や探偵事務所に相談してみるといいでしょう。
なお、代物弁済は物ではなく債権でも可能なので、相手が持っている第三者への債権を譲り受けるという方法を取るケースも多いです。
例で考えると、AA社はBB社から100万円を入金してもらわなければいけないのに未入金になっているとします。BB社はCC社から100万円を入金してもらう予定です。その場合、AA社はBB社が持っているCC社からお金をもらうという権利を譲りうけ、CC社→AA社に100万円入金してもらうことで相殺するという解決方法です。
代物弁済を行う場合に注意しなければいけないのは、譲り受けることができた債権の回収ができなかったり、本来の債権よりも回収できるお金が少なかったりするリスクも考えられるということです。
そして、もし債権の回収に失敗して、ほとんど弁済を受けられなかったとしても、代物弁済を行っていることで本来の債権はすでに消滅してしまっているので、差額の請求はできなくなってしまいます。
そうならないためにも、譲り受ける債権の第三者の支払能力を見極める必要があるでしょう。代物弁済をすることができる債権を持っているのかどうか、そして第三者の支払い能力がどれほどあるかについても、事前に調査会社や探偵事務所によってしっかりと調査をしてもらうことが必要でしょう。
法的手段の検討
内容証明郵便での催促もうまくいかず、代物弁済での解決もできなかった場合は、いよいよ法的手段を検討していくことになります。ただ、法的手段と一言に言ってもいろいろと種類や段階があります。
法的手段という言葉から仰々しいものを想像してしまうかもしれませんが、労力がそれほどかからず解決できるものもありますので、企業法務に詳しい弁護士に相談しながら進めていくのがお勧めです。
具体的には、民事調停や支払督促、少額訴訟、などがありますので、次の章でより詳しく解説していきます。
法的手段で未払金トラブルを解決する方法と流れ
取引先との金銭トラブルを解決する方法としての最終手段は法的解決ですが、法的手段は訴訟だけではありません。訴訟以外にもさまざまな手段がありますので順を追ってみていきましょう。
公正証書の作成
まずは、公正証書で合意書を作成する方法があります。公正証書とは、公証人が作成する書類のことで、「強制執行を認諾する」という文言を記載することで、不払いを起こしたときには相手の財産を差押えることが可能になります。
公正証書を作成することで、取引先にかなり大きな圧力をかけられるため、支払いに応じざるを得なくなるでしょう。公正証書の作成は、全国にある公証役場で対応してもらうことができますので、事前に申し込みをしてから出向いて作成してもらいましょう。
即決和解
もし取引先と支払い方法や支払いの内容で和解できた場合は、簡易裁判所の「即決和解」という方法を取ることも有効です。
即決和解は、当事者同士の和解内容を裁判所が認めるというもので、公正証書と同じく強制執行力があります。もし和解した後に取引先が支払いをしない場合、相手の財産を差押えることができます。
こちらも同様に「支払わなければいけない」という強いプレッシャーをかけることが可能です。
民事調停
当事者同士だけの話し合いで和解に至れば良いのですが、お金も絡んでいるのでなかなかうまくいかないことも多いです。
そのような場合は民事調停を利用しましょう。民事調停は、調停委員が第三者となって、簡易裁判所で行われる話し合いのことです。
どちらが勝ちか、負けかを争うものではなく、話し合いを通じてお互い納得できる形での解決へ導いてくれます。調停委員が入ることで、お互い冷静に話し合いができるようになりますので、打開策を考えるなど解決できる可能性が高くなります。
調停が成立すれば、調停調書が作成され強制執行力を持ちますので、取引先が支払いに応じなかった場合に財産の差押えができるようになります。
支払督促
支払督促とは、裁判所から文書で支払いを督促する制度のことです。取引先に対して「支払督促」続いて「仮執行の宣言が付された支払督促」を出してもらうように裁判所に申立てを行い、これが確定すれば、判決が出たのと同じ効力があります。
訴訟となるとどうしても長期の時間がかかってしまいますし、弁護士に依頼するとなると弁護士費用もかかってしまいますが、支払督促なら早ければ1か月半~22か月程度で終了しますので、短期間かつお金をあまりかけずに解決することができます。また、取引先からの異議がなければ裁判所へ出頭する必要がありません。
内容に争いが生じていない場合は訴訟よりも支払督促の方がスムーズに進められることもありますので、とても使いやすい制度と言えます。
訴訟
最終手段として、未払金回収のための訴訟を起こすという方法での解決を図っていきます。
未払金が60万円以下なら「少額訴訟」を起こすことができます。少額訴訟は、簡易裁判所で行われる訴訟手続で、60万円以下の金銭の請求について、普通の裁判よりも審理手続を簡易化し、1回で集中して審理を行い、判決も原則としてその日に出す手続きなので比較的気軽に活用できる方法です。なお、少額訴訟は弁護士に依頼せずに自社で行うことも可能です。
一方、60万円を超える場合の通常訴訟では訴状や証拠書類の準備が必要となり、専門的な知識も必要となりますので、弁護士に依頼しなければ対応が困難になってしまいます。期間も短い場合であっても数か月程度かかり、弁護士が裁判所に出頭するため、弁護士費用が高額になりやすいことが難点です。
なお、未払金が140万円以下の場合は簡易裁判所で、140万円を超える場合は地方裁判所で行われます。後者の場合は相当複雑な手続になりますので、早めに弁護士に相談して戦略を練っていくことが重要です。
まとめ
取引先との金銭トラブルは会社を経営していくうえで避けては通れないトラブルの一つと言えます。事業を拡大していこうとすると、どうしても取引先を増やしていくことになるので、リスクも大きくなってしまうでしょう。
取引先との金銭トラブルは起こらないよう事前に企業調査を行い、未然に対策をすることも重要ですし、トラブルになってしまった段階ですぐに慌てず対応していくことも大切です。
今回の記事を参考にしていただきながら、冷静に対応していただき、ご自身での解決が難しい場合には出来るだけ早く専門家に相談するようにしてくださいね。