KW時々、ニュースで従業員による横領や情報改ざんなどの不正行為について取り上げられていますが、経営者の多くが「うちの会社には関係ないな」と他人事のように考えてしまってはいませんでしょうか?
社内不正は大企業で起きやすいイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実際には中小企業やベンチャー企業のほうが起きやすいというのが実態です。
また、社内不正はどれだけ用心していても100%防ぐことはできず、どこの会社でも起こりうることですし、どれだけ優秀で信頼を置いている従業員であってもちょっとしたきっかけで不正を起こしてしまうものなのです。
そこで今回は、企業内で不正行為が発覚した場合の従業員に対する適切な対応や、社内不正を起こす従業員に共通する特徴、そして不正行為を調査する方法と注意点について徹底的に解説していきます。
従業員による不正行為の主な手口
従業員による不正行為にはどのようなものがあるのでしょうか。まずは不正の手口について見ていきます。
経費の不正申請
従業員による不正行為で最も多いと思われるのが経費の不正申請です。経費精算の不正には
・交通費や交際費などの経費の水増し申請
・存在しない経費精算を求めるための領収書の不正発行
・領収書の請求額を書き換える不正行為
などが挙げられます。
具体的には、新幹線移動だと言って交通費を請求しておいて、実際には夜行バスで移動して差額を着服したり、架空の取引を作って存在しない領収書を発行して精算したりなどの不正があります。
「こんな単純な不正はすぐにバレてしまうのでは?」と思うかもしれませんが、意外にも経理担当が日々の膨大な量の経費精算をしているために細かくチェックする時間がなく、見逃すことが多いのです。
会社のお金を横領
アパレルや飲食店など、店舗ごとにレジを任せているケースでは、レジの現金をそのまま懐に入れて帳簿を書き換えたり、当日の売り上げを少なく報告して差額を横領したりという手口が横行しています。
また、営業担当者が取引先から現金を回収して契約書を改ざんしたうえで差額を横領するケースもあります。
これらの不正を防ぐためには、防犯カメラを設置したり、上司による定期的または突発的な現金確認審査を行ったりすることである程度は防ぐことが可能ですし、不正行為の早期発見にもつながります。
故意的な情報漏洩
情報漏洩の不正行為は社内の機密情報を故意にパソコンやUSBの機器で持ち出して外部に不正に販売したり、紙媒体の資料の情報を持ち出して流出させたりなどの手口があります。
機密情報は特にライバル会社にとっては喉から手が出るほど欲しい情報だったりすることも多く、かなり高値で売れてしまう上に、情報が漏れることによって自社の被害が大きくなります。
情報が他社に渡ってしまうこと自体の被害だけでなく、従業員による情報漏洩が起きていることが社外に知れ渡ってしまうと、情報管理が徹底できていないということで会社のイメージも暴落してしまうでしょう。そうなると、顧客離れや取引先離れ、採用活動にも大きな影響を及ぼしてしまうことになります。
社内不正を起こしやすい従業員に共通する特徴
社内不正を起こす従業員は、最初から不正を起こそうと目論んでいるケースもありますが、多くが「ちょっとした偶然の重なり」が起きて不正に手を染めてしまうことが多いです。
いわゆる、「魔が差して」ということなのですが、その不正が起きてしまうメカニズムについてアメリカの犯罪学者であるドナルド・R・クレッシーが「不正のトライアングル」として学説を導き出しています。
不正のトライアングルを元に、社内不正を起こしやすい従業員の特徴について見ていきましょう。
動機がある
不正を起こしてしまう1つのきっかけとして動機があるということが挙げられます。
具体的な動機としては、
・仕事のノルマがキツすぎる
・仕事の量に対して給料やボーナスが見合っていない
・仕事で成果を出している(と本人は思っているのに)評価されない
・仕事上のミスを必要以上に責められている
・自分の意見が全く反映されない職場環境である
というような職場や待遇に対する不平不満が不正行為を起こす動機につながってしまうのです。
このような動機を持っている可能性がある従業員の行動に注意するとともに不正を起こす動機を作らせないよう日頃から従業員とのコミュニケーションにも配慮していくことが大切です。
機会がある
不正を起こすきっかけの2つ目が機会があるかどうかです。不正を起こそうと思っても機会がなければ不正行為にまで発展しませんが、機械があれば少しの動機が重なるだけで不正行為につながります。
たとえば
・社内の資料や備品、金品などの管理がおろそかである
・上司や経営者が経費申請の内容をきちんと確認していない
・経費申請の際に領収書の提出が義務付けられていない
・レジの管理を自分一人が行っていてチェックする人がいない
・1つの業務を特定の人が行っていて不正を隠せるようになっている
などです。
これらは会社側が不正行為を起こさせやすい環境にしている責任がありますし、社内の体制を整えれば防ぐことができる範囲です。
自分の行為を正当化する
日頃から自分の行為を正当化する癖のある従業員は不正行為を起こしやすいと言えます。「不正行為=悪いこと」という倫理観が欠如しているため、不正を実行に移しても罪悪感を持たずむしろ積極的に肯定するタイプは不正行為を起こすでしょう。
日頃から
・ミスをしても自分に都合のいい言い訳をして言い逃れしようとする
・自分の成績を上げるためなら多少強引なこともしてしまう
・人より自分は優れていると思っていてもっと報酬をもらっていいはずと不満に思っている
・ミスをしても自分で調整してごまかせばいいと考えている
という傾向がみられる従業員は要注意です。
不正が明らかな従業員に対して不正調査中の適切な対応とは
自社内に不正行為をしていることが明らかと思われる従業員がいた場合、不正行為の事実確認などの調査を行うことになると思いますが、不正調査している期間は企業としてどのように対応していくのがいいのでしょうか。
基本的には、不正が発覚した場合にはその従業員が不正を継続しないように調査期間中は自宅待機を命じるのが無難でしょう。
ただし、例えば経理担当者が単独で行っていた横領などで不正を行った本人しか事実関係を把握していないような場合など、不正当事者に調査協力してもらわないと調査が進まないような場合は、通常業務から外したうえで出社させ、調査会社の指示のもと調査に協力してもらうようにしてください。
なお、不正を行った本人が素直に調査に協力してくれれば問題ありませんが、自社内の人間が調査協力を頼んでも応じてもらえないこともありますので、その場合は交渉力のある調査会社に依頼して、調査に協力しない場合には懲戒処分となり得ることを説明、説得したうえで調査に協力してもらうようにするのが良いですね。
不正をした従業員に対して取るべき対応
では、不正調査を行った結果、不正行為の事実が明らかで不正の証拠もあるとなった場合、企業としてどのような対応を取っていく必要があるのでしょう。
社内での処分と社外での処分の両方の観点から見ていきます。
社内での懲戒処分
企業として、不正を起こした従業員に対して何かしらの形で処分する必要があり、社内での処分は自社の基準で方針を決めていくことになります。
基本的には就業規則に従って懲戒処分を行うことができます。懲戒処分の種類としては、軽いものから順に【戒告】【減給】【出勤停止】【降格】【退職勧奨】【懲戒解雇】となっています。
懲戒処分をする際、どの処分にするか迷ってしまうかと思いますが、間違って不正行為に対して重すぎる処分をしてしまうと会社が逆に訴えられてしまうリスクがあるので注意が必要です。
また、懲戒処分を行うには労働基準法に準じて就業規則に懲戒処分について記載しておき、従業員に対してあらかじめ周知しておくことも必須ですし、処分をした際に当人から不適切だとされないように明確かつ適確な根拠と証拠を用意しておくことも必要です。
これらの証拠集めや懲戒処分の判断は自社内だけではハードルが高いと思いますので、調査会社に証拠集めを依頼したうえで弁護士に相談して懲戒処分の判断を仰ぐことをお勧めします。
刑事告発
社内不正の内容によっては刑事上の責任を問うことができる可能性も出てきます。刑事告発は必ずしなければいけないものではありませんが、社内不正の再発防止のためには、会社として厳然とした対応が必要になります。
そのために刑事犯罪相当の行為があったのであれば、企業としては刑事告発も視野に入れていくべきでしょう。
例えば機密情報漏洩が不正に行われていたような場合は、不正競争防止法の違反や窃盗罪、業務上横領罪に問われることとなります。なお、このような刑事罰を成立させるためには不正行為についての確固たる証拠が必要となりますので、事前に証拠は集めておかなければなりません。
民事上の損害賠償請求
従業員が会社の資産を流用したり横領したりというような場合には民事上の責任を問うことも視野に入れましょう。民事上の責任とは、不正行為によって発生した企業側の損害を不正を起こした従業員が代わりに負うということです。
不正を起こした従業員の所有資産を徹底的に調べ上げ、必要に応じて自宅や所有している不動産、預金に対して仮差押手続を申し立てたうえで、当人と話し合いを行います。
徹底的に責任追及となれば話し合いの中で十分な賠償が得られない場合には、民事訴訟を起こして強制執行まで行うという流れになるでしょう。
このような手続きは慣れていないとスムーズにできないですし、不備が出てくる可能性も高いので、不正を起こした従業員に損害賠償請求をしたいと考えている経営者の方は、弁護士に相談することをお勧めします。
従業員による不正行為の調査方法と調査する際の注意点
不正を起こした従業員に対して処分を検討することと同時に不正行為についての調査も進めなければいけません。
調査の方法と調査する際の注意点についてこの章でまとめていきます。
関係者へのヒアリング
まずは社内不正の事実確認と状況の把握のために、関係者にヒアリングを行っていきます。
内部通報によって社内不正が発覚した場合は通報者だということが周りに悟られないように注意しながら通報者に対してヒアリングを行います。
このような初期対応を適切かつ迅速に行うことで社内不正の早期解決につながります。
証拠を確保する
裁判で刑事告訴や損害賠償請求を認めてもらうためには、不正を起こした従業員の不正を決定づける情報である証拠を確保することが必要です。不正の証拠は従業員を懲戒処分する際にも重要になります。
証拠保全は不正従業員が証拠品の改ざんをしたり、廃棄したりする前に行わなければいけませんので、不正をしたと思われる本人に対してのヒアリングを行うタイミングは証拠保全ができてから行うのが安全でしょう。
なお、近年では社内不正が発覚した際にパソコンやスマホなどのデジタル機器が事実確認のための証拠として裁判に提出されるケースが多くみられるようになっています。
このようなデジタル機器に残されたデータを調査して、証拠能力を持たせることで裁判でも使えるようにするデジタル分野でも調査力のある調査会社を選ぶことが一つのポイントになるでしょう。
通報した従業員を守る
社内不正が内部の通報によって発覚している場合は、通報した従業員を守るという義務が発生します。
その従業員は会社のことを思い、正義感から勇気を振り絞って通報してくれているわけですから、その勇気を無駄にしないように徹底的に守ってあげることが重要です。調査を進めていく中であくまでも匿名を維持し続け、対応を進めていかなければいけません。
このように通報した従業員を守っていくことができていれば、万が一、次の不正が起こった際にも通報しやすい環境を作り上げることができ、結果的に社内不正の抑制につながります。
専門の調査会社への依頼がベスト
社内不正を大事にしたくないからと自社内だけで調査を進めようとする経営者の方は少なくありませんが、社内の人間だけで調査をするのはお勧めできません。
調査の専門知識がない状態で調査を進めても、なかなか思うような結果は出ませんし、犯人に調査していることがバレて証拠隠滅や証拠改ざんをされてしまうリスクが高くなります。
不正調査に力を入れていて、デジタル分野にも強い調査会社に依頼するのがベストでしょう。
まとめ
今回は、従業員による不正行為の手口や不正が起きてしまうメカニズム、そして不正行為が起きてしまった際の適切な対応について解説してきました。
社内不正はどれだけ対策を取っていても100%防ぐことは難しいですが、社内体制を整えておけば早期発見、早期対応は可能になります。そして早期対応ができるかどうかで問題の解決スピ―ドも変わってきます。
万が一従業員による不正行為が発覚した際には、自社内だけで無理に解決しようとせず、不正調査を専門とする調査会社に頼ってくださいね。