会社のお金を使い込んだ社員|今すぐ取るべき対応とよくある不正事例

KWニュースなどで、社員が会社のお金を使い込み、その総額が数千万円単位にまで上っていた・・・という驚きの報道を目にしたことがある方も多いと思いますが、それを見たほとんどの方が「うちの会社には関係ないだろう」と思っているのではないでしょうか。

 

しかし、社員によるお金の使い込みや、経理部による横領事件などはどれだけ体制に力を入れて万全にしていても100%防止することはできません。つまり、会社のお金を使い込まれたり横領されたりする被害はどこの会社でも起こりえることなのです。

 

社員が会社のお金を使い込むときは、多くの場合、いきなり高額な金額を使い込むケースは稀で、はじめは小額なお金を使い込んでいきます。そのため、最初のうちは不正になかなか気が付くことができないでしょう。不正が発覚するのは、なんとなく帳簿に違和感がある、取引先から金額を指摘された、じわじわと上がっていく経費、などほんの些細なことから見えてくることが多いです。

 

今回は、決して珍しいわけではない社員によるお金の使い込みの不正事例や、資産の使い込みが判明したらすぐに取るべき行動、対処する上での疑問と回答について見ていきます。社員による使い込みの被害を他人事だと考えず、被害が起こる前からしっかりと準備していきましょう。

 

 

意外によく起こっている?経費の使い込み=不正利用にあたる行為

冒頭で、横領被害や社員による経費の使い込みは完全には防ぐことができないとお伝えしました。実際、多くの会社で起きているのが実情です。

 

では、どういう行為が経費の使い込みにあたるのでしょうか。ここでは代表的な会社のお金の使い込みについての事例を見ていきます。なお、このほかにも経費の使い込みや不正利用にあたるケースもありますので、ここでご紹介していない状況で経費の使い込みにあたるかどうか判断できない場合は、弁護士に相談してみるのがお勧めです。

 

 

交通費の使い込み

経費の不正な使い込みとしてもっとも典型的なのが、交通費の使い込みです。交通費が高くつく経路で通勤していると申請して、実際は電車や自転車、徒歩などの安い方法で通勤して差額を着服していたり、私用で使ったタクシー代金を勤務中の交通費として申請したり、など、深く考えずに経費を不正に使い込める方法のため、案外多くの社員がこのような不正行為を行っています。

 

交通費の使い込みは、11つはそこまで大きな金額にならないことが多いですが、そのような不正を行う社員が増えてしまうと会社に大きな影響を与える金額に膨れ上がってしまう可能性もあるので注意が必要です。

 

 

出張費の使い込み

いわゆる「カラ出張」と言われている手法で、実際は出張をしていないのに出張があったかのように見せかけて出張費を使い込む手口です。

 

出張をそもそも行っていないのに出張費を騙し取るケースもありますし、新幹線で行ったと申請して実際は安いバスなどで移動して差額を横領するケースもあります。

 

 

接待交際費の使い込み

こちらもよくある使い込みの事例です。社員同士のプライベートの飲み会を接待として計上するなどの例が代表的で、会計上は接待交際費として計上できないようなプライベートの飲食代金を、取引先との接待費用として計上して経費を使い込む手口です。

 

飲食店とグルになっているケースもあり、宛名や日付、金額を空白にした領収書を手に入れて、金額も好き放題書き込むという不正利用の事例もあります。

 

 

私的流用

業務上必要な物資の購入や、取引先へのお歳暮、お中元などに見せかけて自分だけが使うものを会社の経費で購入するという手口もあります。

 

 

架空請求

こちらの事例は被害金額が大きくなりやすいものです。実際には購入していないのにそれに対して架空に経費を請求し、騙し取る方法です。

 

実際に購入したように見せかけるためにクレジットカードで決済し、経費計上したあとすぐに決済をキャンセルして購入金額分を使い込むという手口も報告されています。

 

 

社員による会社資産の使い込みが判明したらすぐに取るべき対応

社員によって会社の資産が使い込まれているという事実を耳にしたら、迅速に的確な対応を取らなければなりません。具体的にはどのような対応を取るべきなのでしょうか。

 

 

その社員が会社のお金を扱えないようにする

使い込みをしている社員がいると判明した場合、何よりもまず最初にその社員が会社のお金を扱えないようにすることが重要です。

 

これを忘れてしまうと、使い込みの不正がバレたと思った社員が逃げる前の最後に会社のお金を大量に持ち逃げしてしまう危険性があります。特に経理担当者が使い込みの犯人の可能性がある場合は、大きな金額を扱うことに慣れていますので、できるだけ早く対処することが重要です。

 

 

お金を使い込んだという証拠を確保

次に、会社のお金を使い込んだという客観的な証拠を集めることが必要です。その社員がお金を使い込んだ犯人であるという証拠や、使い込んだお金が合計いくらになるのか、その手口はどういうものなのかを証明できるものもそろえておく必要があります。

 

こういった証拠がなければ、刑事上、民事上、労働関係上の問題に対応する際に、正当に対応できない可能性が出てきてしまいます。

 

証拠を集めるためには、通帳や帳簿のデータを収集したり、支払明細書などの書類をチェックしたり、周囲の社員に聞き込み調査を行ったりすることで集めていくことになりますが、かなり労力がかかるうえに法的効力のある証拠を集めるのは素人ではなかなか難しいでしょう。

 

そのような場合は、不正調査や社内不正調査に定評のある探偵に調査を依頼するのがベストです。

 

 

早めに専門家に相談する

会社のお金の使い込みが判明したら、できるだけ早く弁護士や探偵などの専門家に相談することも必要です。使い込みの被害が起きてしまってから会社としてできることは限られてしまいますし、不正の証拠を隠滅されてしまっては、刑事上、民事上、労働関係上の対応もできなくなってしまいます。

 

また、刑事事件としてや民事事件として訴えていくためには、法的手続きなど煩雑な対応も多くなってきますので、早めに弁護士に相談して会社が不利にならないように対処していきましょう。

 

 

社員が会社のお金を使い込んだ場合に考えるべき問題

社員が会社のお金を使い込んだと分かった場合、考えるべき問題を分別すると、【刑事上の問題】【民事上の問題】【労働関係上の問題】の3つにわけることができます。

 

この章では、それぞれの観点から考えるべき問題を詳しく見ていきましょう。

 

 

刑事上の問題

社員が会社のお金の使い込んだ場合、刑事責任として業務上横領などに当たる犯罪となります。業務上横領で刑事責任を問うとなると大事になってしまい、できれば内密に穏便に済ませたいと考える経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、業務上横領を起こした社員に対して何も訴えを起こさないと、他の社員に示しがつかなくなってしまいます。

 

「業務上横領を起こしても何も処罰されない」と思われてしまうと、同じような犯罪を起こす社員が出てきてしまうリスクが高くなるので、刑事上の問題として考えることも必要でしょう。

 

刑事上の問題として訴えていくためには、警察に被害届を出したり、警察に証拠を提供したりするという手順になります。刑事責任を問うためには、被害の証拠や犯人であるという証拠が必要になりますので、警察に被害届を出す前に探偵などに調査を依頼して確実に証拠を集めておくとスムーズです。

 

ただし、刑事責任を問うことのデメリットとしては、使い込みをした社員が逮捕されてしまうとその社員の資力がなくなり、事実上使い込んだお金が返済されないという可能性が高くなりますので、使い込んだお金の返済に重点を置くのであれば、次の民事上の問題として考えていくほうが良いでしょう。

 

 

民事上の問題

社員が使い込んだお金を取り戻すためには、民事上の問題として考えていきます。しかし、会社のお金を不正に使い込むくらいですから、社員の手元にほとんどお金がない場合も多いです。

 

お金がなければいくら罪を認めてもお金が返ってくることはありませんので、その場合は、身元保証人に損害賠償請求をしてお金を取り戻していくという方法になります。

 

また、本人はお金がないと言っていても実は財産を持っていそうだという場合などは、財産調査を行いお金を返す能力があるかどうかを調べておくことも必要でしょう。

 

身元保証人への対応や使い込まれたお金の返還請求などについては【信頼していた社員が着服!?返還請求や解雇を行うための正しい対応信頼していた社員が着服⁉返還請求や解雇を行うための正しい対応】の記事により詳しくまとめていますので、こちらも参考にしてみてください。

 

 

労働関係上の問題

労働関係上の問題というのは、使い込みをした社員に対してどのような処分を会社として行うのかを考えていくということです。

 

会社のお金を使い込んだことがわかっている社員に対しては、当然、「すぐに辞めてもらいたい」「退職金なんて払うわけがない!!」と考えてしまうのが本音だと思います。

 

しかし、法律上はたとえ会社のお金を使い込んでいたとしてもすぐに解雇したり、給料や退職金を支払わなかったりすることは認められていません。

 

それらの対応についてはいろいろと疑問があると思いますので、後ほどの章で「よくある疑問」として詳しく解説していきます。

 

 

労働関係上の問題としてよくある疑問

会社にとって、資産を使い込んだ社員の処遇をどうするべきかというのはとても大きな問題ですよね。経営者の心情的には「すぐに辞めさせたい」「横領したやつなんて一切信用できない」「給料も払いたくない」というのが正直なところではないでしょうか。

 

この章では、会社のお金を使い込んだ社員に対しての会社の対応としてよくある疑問についてまとめていきます。

 

 

会社のお金を使い込んだ社員を解雇できる?

一番経営者の方が気になるのが「辞めさせることはできるのかどうか?」でしょう。

 

結論から申し上げますと、使い込みをした社員であれば、よほど特別な理由がない限り、懲戒解雇が認められる場合の方が多いです。ただし、これは就業規則に懲戒解雇の規定が書かれていることが前提です。さらに、使い込みをした社員に弁解の機会を与えるなど正式な懲戒解雇の手続を行っていかなければなりません。

 

会社のお金を使い込んだ社員を解雇したい場合は、まず就業規則を確認しましょう。

 

就業規則がない、または就業規則に懲戒解雇の規定がないという場合はかなり慎重に進めていかなければなりません。また、懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い処罰なので、不当解雇で訴えられてしまうリスクを考えると、いずれの場合も念のため弁護士に相談しながら対処していくほうが安心ですね。

 

 

給料は払わなくてもいい?

「会社のお金を使い込んだやつに給料なんて払う義務ないだろう」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、原則として給料に関してはそれまで働いた分を支給する義務があります。

 

使い込みという不正行為をしたからといって給料を支払わなくてもいいことにはならないのです。

 

ただし、使い込みをした社員との間で、使い込んだ分を給料で相殺するという合意を書面を作成できれば、支払わないという対応を取ることも可能です。

 

 

退職金は払わなくてもいい?

退職金に関しては、そもそも退職金の制度を会社が設けているかどうかにもかかわりますし、就業規則に退職金についての項目がどのように書かれているかによっても変わってきます。

 

就業規則に退職金規定がある場合は支払う必要があります。ただし、退職金を支払うという規定に加えて、「懲戒解雇のときは退職金を支給しない」といった規定があれば、退職金を支払う必要はなくなります。

 

また、給料の支払いと同様に、退職金を支払う義務が会社にあった場合であっても、社員との間で使い込んだ額の返済として退職金をあてたいという合意があれば、実質的に退職金を支払わなくても済むという方法も考えられます。

 

給料や退職金の支払いについては就業規則を確認することも必要ですし、労働問題に強い弁護士に相談しながら進めていくのがより安全と言えます。

 

 

まとめ|社員による会社の資産使い込み問題を解決するためには証拠が必要不可欠

社員による使い込みの問題を根本から解決するためには、誰が使い込みの犯人なのか、使い込んだ額はいくらにのぼるのか、どのような手口で使い込んでいたのか、などの事実を明確にする必要があります。

 

そして、事実関係を解明していくためには、的確な証拠収集が必要不可欠です。証拠としては帳簿や手帳、取引関係書類、電子メールなどの物的証拠、関係者へのヒアリングで得られた供述証拠などがありますが、証拠が破棄、隠匿、改ざんされる前に、迅速かつ確実に確保していくことが重要です。

 

さらに、物的証拠を揃えたうえでそれをもとにヒアリングを実施することも有効です。

 

物的証拠を収集することも、供述証拠を掴むこともなかなか社内の人間だけでは難しいですし、対応を誤って証拠を隠滅されてしまう恐れもあります。

 

使い込みの被害が起きたら、まずは冷静になり、専門家に相談することを優先しましょう。探偵など調査の専門家であれば、証拠収集をスピーディーに行うことはもちろんのこと、社員への対応のアドバイスもしてくれます。問題を先送りにしたり、うやむやにして事を収めるのではなく、他の社員への影響も考えて適切に対処していくことが重要です。