KWニュースで企業内の不正発覚の事実を耳にすることはそれほど珍しいことではありません。ニュースに取り上げられていないだけで、もっと小さい内部不正を含めればかなりの件数になるでしょう。
また、大企業内での不正のほうが金額が大きくなる分インパクトがありますが、中小企業やベンチャー企業のほうが社内不正が多く、特に経理を含む管理部が不正を働いているケースが非常に多いです。
今回は、企業の管理部による不正事例や管理部の不正行為が起こりやすい状況、そして不正行為を予防するための対策について詳しくお伝えしていきます。
大小の差はあっても企業における不正行為は日常的に起きている
管理部による不正は昔から起こっているものではありますが、人材の流動機会が増えたり、SNSを使って内部告発しやすくなったりしたことにより、表に出てきている件数が増えています。
また、一般社団法人CFO協会が行った調査によると、回答した会社の4分の3にも当たる企業が自分の会社で不正行為を見聞きしたことがあると答えていますので、社内不正はどこの会社で起こっていてもおかしくはないことが分かるでしょう。
さらに、1,000万円以下の少額の不正規模では企業が倒産に追い込まれることはないので、不正が行われた被害金額が少額の場合、不正として受け止められずに表に出ていないことも考えられます。
例としては、交際費として計上できないような飲み会であっても、請求書をもらって数字を書き換えて差額を懐にしまいこんだり、バスで移動しているのに新幹線を使ったとして交通費を不正に請求したりといった経費精算上の不正は、額は大きくないにしても、日常的に起きているといえるでしょう。
このように、小さい被害金額の不正を含めれば、極端な話、どんな企業でも100%不正行為が起きていると考えてもおかしくないのです。
管理部による不正行為の事例
経理などを含めた管理部では、ちょっとした気の緩みや魔が差したタイミングで不正行為が起こってしまいがちです。
というのも、管理部は多くの裁量を与えられており、権限が集中してしまいやすいのです。
具体的にどのような不正の事例があるか見ていきましょう。
会社のお金を不正に流用する
不正行為として多いのが、会社のお金を不正に使い込むというものです。自分の口座を作って会社のお金を振り込んだり、架空の請求書を発行してそのお金を流用したりというケースが多く報告されています。
取引先から賄賂を受け取る
管理部は会社における権限があるので、取引先から営業をかけられることも多いです。正当な営業行為であれば問題ないのですが、中には賄賂を渡してこようとする取引先も存在します。
会社に報告せず、取引先から金銭の受け取りをするのは賄賂に当たりますので、管理部が取引先と癒着していないかどうか注意してみておくことも重要です。
顧客情報を流出される
すべての顧客情報を管理部で管理している会社も多いと思いますが、顧客情報は資産でもあります。
その顧客情報を不正に他社に流出させ、その見返りとして金品を受け取っている管理部の不正も少なくありません。
顧客情報を誰でも閲覧したり管理したりするようにするのは情報漏洩の観点から危険ですが、かといって一人だけの担当者だけが管理している状況も故意に情報を流出されてしまう可能性があるので、リスクがあります。
顧客情報については、管理部の中で信頼のおける従業員数名で管理するようにし、お互いに監視し合う体制を整えておくのがいいでしょう。
管理部による不正行為が起こりやすい状況とは
冒頭で、企業における不正行為は100%防ぐことはできず、どの企業でも起こりうるということはすでにお伝えしました。
被害金額の大小の差はあるものの、企業内不正がまったく起きていない会社はほとんどないでしょう。
しかし、その中でも特に管理部による不正行為が起こりやすい状況になっている企業も存在します。下記にご紹介する特徴のうち1つでも当てはまるものがあれば、不正行為が起きている可能性が高くなりますし、日常的に不正行為が行われているリスクがあります。
長年同じ人が担当している
お金を管理する担当者が長年同じという企業は不正行為が行われている可能性が高くなります。
定期的にお金の管理で不審な点はないかどうか、他の管理部の社員や上司がチェックする体制が整っていれば問題ありませんが、長年同じ担当者が管理している状況においてはほとんどのケースでダブルチェックの体制ができていません。
自分以外の社員がお金の管理についてノータッチだという状況になると、「少しくらい会社のお金に手を付けてもどうせバレないだろう」と考えてしまい、お金に困ったタイミングなどちょっとしたことがきっかけで不正行為を働きやすくなってしまうのです。
別通帳で管理しているお金がある
中小企業やベンチャー企業などでは珍しくないことなのですが、実は企業によっては経理部が直接管轄していない別通帳のお金があるケースもあります。
社内での飲み会や社員旅行に行くときのために給料から天引きされる「組合費」のようなものを設けている企業もあるでしょう。
そのようなお金の管理をどの部署がやるべきかというのは、法律上特に決められているわけではないので、企業によって「お金に関することは全て経理部で管理する」というケースもあれば「経理部の負担も大きくなるから総務部で管理してもらおう」というケースもあり、責任の所在が曖昧になりがちです。
通常、会社が管理すべきお金に関しては、税理士や会計士が毎月末や決算期末で帳簿上の残高と通帳の残高が一致しているかチェックをしますが、このような所在の曖昧なお金は公式のチェックから外れることも珍しくなく、チェックをかいくぐれるからこそ、不正に手を付けやすいものになってしまっています。
別通帳で管理しているお金がある企業は、しっかりと税理士や会計士のチェックを入れてもらうことをお勧めします。
監視体制が成立していない
管理部の不正が起きやすい会社として監視体制が甘いという特徴があります。もちろん、管理部は信頼のおける従業員に担当させていると思いますので、「監視してしまうと、疑われていると感じて不快な気持ちにさせてしまうかもしれない」と気が引けてしまうのもわかります。
しかし、監視体制を設置しておかなければ「どうせバレない」と不正行為を誘発しかねませんし、万が一不正行為の前兆となる行為があったときに早期に発見できず、不正行為による被害金額が大きくなってしまうことになります。
お互いの業務を監視し合うことは、不正行為の予防にもつながること、そして、万が一不正と思われるようなことがあった場合に従業員を守ることができるということを経営者の立場から伝えてあげることで、監視体制への不信感を取り除くことができるでしょう。
適切な処遇や職場環境になっていない
社内不正が起こりやすい状況として、職場環境が劣悪だったり、適切な処遇ができていなかったりという状況が挙げられます。
例えば、多大な業務量を任されている、長時間勤務や休日出勤が多い、成果を出しているのに昇進できないなどの状況が続くと、会社へのストレスが溜まってしまい、社員自ら「不正行為を働いても仕方がない」と不正を正当化してしまうこともあります。
また、上司や同僚とのコミュニケーション不足も内部不正の要因になることがあります。
成果に対して昇給や昇進をさせてあげているのか、従業員の中にある不満や要望を吐き出させてあげられているかどうか、社内環境を見直すことも重要です。
管理部の不正を防止するための基本原則
管理部の不正を予防するための具体的対策について見ていく前に、社内における不正行為を防止するための基本原則について確認していきましょう。
犯罪学者である Cornish & Clarkeが都市空間における犯罪予防の理論として提唱したものを元に、直接的かつ間接的に不正を防止するための原則を定めています。
不正を起こしてしまう可能性のある従業員本人を変えようとするのではなく、監視者を設置するなど、企業としてコントロールが可能な職場環境を適切に定めることを主眼としているため、汎用性が高くなっています。
その不正防止の原則とは
・不正行為をやりにくくする
・不正行為が発覚するリスクを高める(不正行為がバレやすい状況)
・不正行為が割に合わないようにする
・不正行為を起こそうとするきっかけや誘因を減らす
・不正行為についての弁明ができないようにする
の5つがメインになります。
次の章で、不正行為を予防するための対策について具体的に見ていきますが、各企業で防止策を考えるうえで、上記の原則を頭に入れておくとより効果的な防止策を打つことができるでしょう。
管理部の不正行為を予防するための具体的な対策
社内不正を100%防止することはかなり難しいことではありますが、それでも不正を防止するための施策を打つことは重要なことです。
しっかりと不正防止策をしておけば、社内不正を可能な限り抑え込むことができますし、万が一不正が起こったときも比較的早期に発覚できますので被害を最小限に抑えることができます。
ここでは、不正防止の基本原則に基づいて具体的な対策をお伝えしていきます。
権限管理を適切に行う
会社のお金の管理や顧客情報の管理において、適切に権限が管理されているか再チェックしてみましょう。
特定の管理者に権限が集中しないように権限を分散することも重要ですし、複数の管理部の担当者がお互いに監視し合い、不正や見落としがないかダブルチェックを行える環境作りを今一度見直してみることが不正防止につながります。
取引先との癒着の防止
管理部は会社における金銭的な権限が与えられている立場のため、取引先から賄賂を渡される恐れがあります。
取引を行う際の契約書や見積もりを改ざんして差額分を賄賂として受け取るケースも多いため、不正を防ぐためには、相見積もりを行う、定期的な人事異動を行うなどの対策が効果的です。
内部通報しやすい環境を整備する
社内不正は経営者だけが目を光らせていても完全に防いだり発見したりすることは難しいでしょう。
社内すべての従業員たちがお互いに監視し合い、不正を発見したら内部通報できるような環境を整えておくことも不正防止には効果があります。
内部通報しやすい環境作りで最も大切なことは、内部通報があったときに通報した社員は必ず守られることを周知しておくこと、それを実践することです。
経費精算ツールを導入する
日常的かつ、従業員全員が不正行為を起こす可能性がある経費精算については、IT化を進めていくことが特に効果的になります。
経費精算ツールを使えば、請求書をスマホで撮影して送るだけで経費精算ができるので、手計算や手入力によるミスも少なくなりますし、経費をデータ化することで、データ分析も可能になり、不正が起きた時にすぐに異常として気が付くことができます。
ITの力を借りれば不正を起こす機会を減らすことができ、業務の効率化も図ることできるため一石二鳥です。
職場環境や処遇が適切か見直す
従業員が不正行為を働く動機を高める原因となってしまうのが、会社における職場環境、処遇に対する不満だと言われています。
そのため、従業員に不正行為を思いとどまらせる対策として、職場環境の改善や評価体制の見直しも重要です。
職場環境に不満がなく、自分の成果をきちんと評価されていると感じている社員と、職場環境や給料、上司との関係性に不満を持っている社員とでは、不正を働きやすい可能性があるのはどちらなのか明白でしょう。
経営者やマネジメント層が、昇進や給与について公平で客観的であると思っていても、当の本人が納得しているとは限りません。
また、特定の従業員に業務量が偏っていて日常的に大きな負担を抱えさせている状況に気が付かずにいると、企業に対する不満が日々溜まっていき、機会さえあれば不正を働く状況を作り出してしまうこともあります。
公平や人事評価や上司と部下との良好なコミュニケーションを見直すだけで多くの不正行為は防げるはずです。
まとめ|内部統制は従業員を縛るものではなく、守るものという意識を
管理部による不正行為を防ぐためには、不正が起きないようにする仕組みと、不正が行われたとしても早期に発見する仕組みの2種類の対策が必要です。
このような内部統制は、従業員を疑っているようで気が引けるという経営者の方も少なくありませんが、内部統制は従業員を縛ったり疑ったりするものではなく、従業員を犯罪者にせず守るために行うものです。
大切な従業員を守るために、不正防止対策や発覚しやすい仕組み作りを行っていくことをお勧めします。また、少しでも怪しいと感じたら、できるだけ早く内部調査を行うようにしましょう。