皆さんは「発信者情報開示請求」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
発信者情報開示請求とは、インターネット上で他者を誹謗中傷するような投稿を行った投稿者の情報を開示するようにプロバイダに対して求めるための制度のことを言います。
「口コミサイトに自社がブラック企業であるという根も葉もないことを書かれてしまって困っている」
「個人のブログで自社のカスタマーサポートの悪口を書かれてしまったが事実ではない」
「自分はモデルをしているが、ネットの掲示板に誹謗中傷の内容を書かれてなんとかしたい」
など、インターネットが普及したことによってネット上で悪評や誹謗中傷を書かれてしまう被害が増えてきています。 オフラインでの口コミと比べ、インターネット上での口コミは不特定多数の人が閲覧できますし、広まるスピードはオフラインの比にならないくらい早いです。
今回は、インターネット上で誹謗中傷や名誉毀損と言える投稿をされてしまった企業様や個人の方に向けて、加害者である投稿の発信者を特定するための「発信者情報開示請求」について、その手順やかかる期間、成功のためのポイントについてまとめていきます。
発信者情報開示請求とは
冒頭でも少し述べましたが、発信者情報開示請求とは会社や個人に対して誹謗中傷と取れる記事を投稿した人物を特定することができる制度のことです。
発信者を特定することで、投稿者に対して損害賠償請求を行うことができるようになりますし、書き込み内容によっては、名誉毀損罪や業務妨害罪等の刑事上の罪に問うことも可能になります。
インターネット上では日々多くの誹謗中傷の内容の投稿がされており、それによって多くの企業や個人が傷つき不利益を被っていますが、インターネット上の誹謗中傷の投稿は匿名で行われることがほとんどなので、加害者である投稿者がどこの誰だかわからず、泣き寝入りする人がほとんどです。 それを防止し、被害者が加害者に対して損害賠償請求をできるようにするための制度が発信者情報開示請求なのです。
送信防止措置請求との違いは?
インターネット上の誹謗中傷に対する対策としては、発信者情報開示請求のほかにも、「送信防止措置請求」という制度があります。
この2つの違いとしては、
発信者情報開示請求:誹謗中傷記事の投稿者の氏名、住所を特定するための制度
送信防止措置請求:誹謗中傷記事を削除するための制度
という点です。
送信防止措置請求は誹謗中傷された記事を削除するだけで投稿者を特定することができないので、加害者に対して損害賠償請求や刑事告訴をしたい場合は発信者情報開示請求という手続きが必要になります。
また、送信防止措置請求だけだと、加害者を特定することができないので、誹謗中傷の投稿が繰り返される恐れもあります。加害者を特定することで誹謗中傷の再発防止も期待できますので、発信者情報開示請求を検討したほうがいいでしょう。
発信者情報開示請求で手に入る情報
発信者情報開示請求の手続きで手に入る情報は
・ 氏名
・ 住所
・ 電話番号
・ メールアドレス
・ IPアドレスとポート番号
・ インターネット接続サービス利用者識別符号(i-mode IDなど)
・ SIMカード識別番号
・ タイムスタンプ
の8つです。
氏名、住所、電話番号、メールアドレスの情報が入手できれば、弁護士に依頼した時にもスムーズに対応してもらえるでしょう。なお、IPアドレスとタイムスタンプについては下記で簡単に説明いたします。
☆IPアドレスとは
IPアドレスとは、インターネット上で投稿をする際にパソコンやスマホなど1台1台に対して割り振られる番号のようなものです。IPアドレスとタイムスタンプがわかれば、誹謗中傷の内容が書かれた記事がどのパソコンやスマホから投稿されたかを特定することができ、加害者特定につながります。
☆タイムスタンプとは
タイムスタンプとは、インターネット上に記事を投稿した時刻に関する記録です。IPアドレスと合わせて投稿されたパソコンやスマホを特定していきます。
発信者情報開示請求をする際の流れ
ここからはいよいよ発信者情報開示請求をする際の流れを見ていきましょう。
発信者情報開示請求が認められるかどうか検討する
実際に発信者情報開示請求の手続きを始める前に、発信者情報開示請求が認められて投稿者の情報を開示できるかどうかを検討しましょう。
開示請求が認めてもらえるかどうかは、誹謗中傷記事の内容が名誉棄損にあたるかどうかという点と、誹謗中傷記事の投稿から日数が経ちすぎていないかという点が見極めのポイントになります。 これらについては、次の【発信者情報開示請求を認めてもらえるかどうかのポイント】の章でより詳しく解説していきます。
サイト運営者にIPアドレスとタイムスタンプの開示請求
発信者情報開示請求をすることを決めたら、まずサイト運営者に投稿者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求める手続を行います。
サイト運営者に対して、「発信者情報開示請求書」を送付します。これはIPアドレスとタイムスタンプを開示するように求める請求書の役割を果たします。送付する際には、手続きが遅れることを防ぐために、サイト運営者の回答期限を設定して明記しておくことをお勧めします。回答期限は10日前後にするのが一般的です。
参考記事:発信者情報開示請求書 書式
ただ、多くの場合サイト運営者がIPアドレスなどの情報を開示することはありません。なぜなら、サイト運営者には投稿者の守秘義務があるからです。「裁判所の開示命令がなければ開示できない」と回答されることがほとんどでしょう。 そこで、発信者情報開示請求書を発送する手続きと並行して、サイト運営者に対して投稿者のIPアドレスとタイムスタンプの開示を求める裁判を起こす準備を進めていくことが必要 になります。
サイト運営者に発信者情報開示仮処分命令申立を起こす
「発信者情報開示仮処分命令申立」は、発信者情報開示請求書をサイト運営者に送ってもIPアドレスとタイムスタンプの開示を拒否された場合に行う手続きで、裁判所から開示に応じるように命じる仮処分を出してもらうためのものです。
先ほども述べましたが、ほとんどのケースで開示請求書だけでは応じてもらえないので、仮処分命令申立も同時並行で行っていきます。 仮処分命令申立が成功するかどうかは、誹謗中傷の内容が法律上、名誉棄損にあたるかどうかが重要なポイントとなり、誹謗中傷の内容が事実なのかどうかが論点になります。
もし誹謗中傷の内容が事実であれば名誉毀損にあたらないとされてしまうので、裁判所から発信者情報開示請求を認めてもらえない可能性もありますので、発信者情報開示請求をする前に認めてもらえるかどうかの検討はしっかりと行っておくのがベストです。
投稿者の利用したプロバイダを特定する
無事にIPアドレスが開示されたら、次はIPアドレスの情報をもとに、加害者が投稿する際に使ったプロバイダを特定していきます。 加害者が記事を投稿する際はインターネットへ接続するために、必ずプロバイダのサービスを利用しているはずです。
IPアドレスとタイムスタンプの情報から投稿時に利用されたプロバイダを特定し、最終的にプロバイダに契約者の氏名や住所を開示してもらうことで、投稿者を特定するというのが流れになります。 なお、プロバイダの特定には、こちらの【ドメイン|アドレスリサーチ】に入力すれば簡単にプロバイダを特定することができます。
裁判所からプロバイダに記録保持の命令を出してもらう
プロバイダがわかったら、次にプロバイダに対して、加害者の特定に必要な記録を消去せず保持しておくことを裁判所から命令してもらう手続きを行います。
プロバイダでは、投稿者の特定に必要になる記録が自動的に消去されていく仕組みになっているため、発信者情報開示請求の手続が終わるまで、この自動消去をとめなければいけません。
プロバイダから契約者の氏名、住所を開示してもらう
プロバイダに対して記録の消去を禁止する命令を出してもらったら、プロバイダに対して、プロバイダの契約者の氏名や住所を開示させるための裁判の手続を行います。
この裁判手続に必要な期間は、通常6か月~7か月程度かかります。また、ここでも誹謗中傷の記事内容が法律上、名誉棄損にあたるかどうかが重要なポイントになります。 無事に開示が認められればプロバイダの契約者の氏名、住所を取得でき、個人を特定できるようになります。
発信者情報開示請求を認めてもらえるかどうかのポイント
発信者情報開示請求はどんな場合でもできるかと言えばそうではなく、認めてもらえないことも少なくありません。 発信者情報開示請求をしても開示が認められないのであれば、時間と労力の無駄になってしまいますので、前もって認めてもらえるかどうかご自身でも判断することが大切です。 では、どのような観点で見ればいいのか解説していきます。
誹謗中傷記事の内容が名誉棄損にあたるか
何度もお伝えしていますが、発信者情報開示請求が認められるためには、誹謗中傷の内容が法的に見て名誉棄損にあたる内容かどうかが重要です。 自分では誹謗中傷されたと思っていても、法的に見て名誉棄損にあたらなければ、発信者情報開示請求は認められません。
例えば、「●●会社の社長が気に食わない」など投稿者の感想や意見を書いたにすぎない投稿の場合は名誉毀損と見なされません。 他にも、「●●会社は人間関係が悪い」など具体的な事実が書かれていない漠然とした投稿や、投稿内容が事実・真実である場合は名誉毀損にはあたりません。
誹謗中傷記事の投稿日から日数が経ちすぎていないか
次に、誹謗中傷の内容の記事が投稿日からかなり日にちが経ってしまっている場合は、途中で手続がすすめられなくなるので、特定にまで至らない危険性があります。
すでにお伝えしているように、投稿から時間がたつと、プロバイダの投稿者の特定に必要な記録が自動的に消去されてしまうからです。一般的には3か月程度で自動的に消去されるようになっていますので、それくらい日数が経っていると残念ながら加害者の特定は難しくなるでしょう。
発信者情報開示請求にかかる期間はどのくらい?
インターネット上で誹謗中傷を受け、実害を被っている場合はできるだけ早く発信者情報開示請求をして個人を特定し、損害賠償請求をしたいと考えている方や企業様が多いでしょう。
しかし、発信者情報開示請求に必要な期間は、平均的には、トータルで8か月~9か月ほどの期間が必要だと言われています。 できるだけ早く開示請求したいという場合は、
・名誉棄損に該当することを証明できる立証資料を迅速に準備する
・手続きに精通している弁護士に依頼する
ことが大切です。
まとめ|発信者情報開示請求を成功させるために大切なポイント
発信者情報開示請求をする手順や着目ポイントについてまとめてきましたが、誹謗中傷をしてきた加害者の特定を成功させるためには、以下の2点のポイントをしっかりとおさえておくことが大切です。
スピーディーにステップを進める
発信者情報開示請求をする際の流れで説明したステップをいかにスピーディーに進められるかどうかがポイントになります。
誹謗中傷投稿から時間がたつと、加害者の特定に必要な記録が自動的に消去されていきますので時間との戦いなのです。 記録の消去をとめるためには、プロバイダに対して、記録消去を止める命令を裁判所に出してもらうことが必要ですので、このステップまでに迅速にもっていくことが重要です。
投稿内容が事実でないことの証拠集めを探偵に依頼する
投稿内容が事実ではなく、名誉毀損にあたるということの証拠を集める事もとても重要です。この証拠がなければどれだけ頑張っても開示請求は認めてもらえず加害者の特定もできなくなります。
事前に不備のない十分な証拠資料を準備して、手続を進めていくことが大切です。証拠資料については個人で集めることはかなり厳しいので、嫌がらせや誹謗中傷問題を得意とする探偵に調査を依頼することをお勧めします。