KW企業を経営していると、様々なトラブルに巻き込まれることがありますよね。
その中でも、子会社でのトラブルや不正は親会社をはじめ、グループ会社全体に大きな影響を与えてしまうものです。会社や社員たちを守っていくためには、子会社をしっかりと管理し、リスクマネジメントを徹底していくことが重要なテーマになると言えるでしょう。
子会社での不正やトラブルは、小さなものも含めればどこの会社で起こってもおかしくないものです。普段から定期的に社内調査を行うことも大切ですし、少しでも不審な点があればそれを見逃さず徹底的に調査を進めていくことがより大きな被害を防ぐことに役立ちます。
今回の記事では、子会社でのトラブル事例や、子会社の不正リスクの実態、トラブルが起こってしまう根本的な原因などを解説していきたいと思います。さらに、子会社でトラブルが起こってしまったと発覚した際の対処法についてもお伝えしていきますので、他人事とは思わず、ぜひ参考にしてみてください。
子会社でのトラブルは企業グループ全体に甚大な影響を及ぼす
子会社を設立する際、子会社の社長は当然親会社の経営者が本心から信頼できると思っている人物をトップに据えると思います。
しかし、信頼できると思っている人物を子会社のトップにしたとしても、誰からも監視されていないと感じてしまうと不正を起こすきっかけになってしまいますし、トラブルが起こったとしてもそれを隠ぺいしようとしてしまうこともありえます。
子会社でのトラブルが会社存続の危機まで招くことも・・・
子会社での不正会計や横領、ミスの隠ぺいなどは親会社による管理体制が十分に機能しない場合に発生することが多く、またそのようなトラブルが長期にわたって親会社に知らされないようなケースも少なくありません。
親会社によってしっかりと管理がしきれていないために起こった子会社での不正やトラブルは、不正の金額や横領金額が多額になり大きな影響を及ぼす段階になって初めて発覚するケースがほとんどです。
そのため、子会社で起こるトラブルが親会社やグループ会社全体に及ぼす悪影響は多大なものになってしまうのです。企業価値の低迷や顧客からの信頼を失ってしまい、それらを取り戻すためには多大なる時間と労力、コストがかかってしまうため、会社全体の経営にも影響が出てしまうことになります。
子会社での懸念されるトラブル事例
子会社でどのようなトラブルが起こりうるのかを前もって把握しておくことで、未然に防ぐことができる場合もあります。
20202020年11月に公表された株式会社東京商工リサーチの調査によると、子会社で起こるトラブルの事例として多かったものとして
・金銭や物品の着服や横流し
・粉飾決算などの不正会計
・水増し発注などによるキックバックの受領
が多く挙がっています。
損害金額の観点から見てみると「金銭や物品の着服や横流し」は比較的少額である一方で、「粉飾決算などの不正会計」の場合は多額の被害となる傾向があります。
不正を防止、発見するための体制を整えるのにもお金がかかるものなので、少額な不正のすべてを防止、発見できるような厳格な内部統制を構築することが必ずしもコスト面で見合うかどうかははっきりとはわかりません。
そのため、不正を防止、発見する仕組みに加えて、会社全体に及ぼす被害金額が大きくなる前に発見できるような仕組み作りや定期的な社内調査の実施が重要であると言えるでしょう。
参考サイト:株式会社東京商工リサーチ
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210119_01.html
子会社での不正リスクとその実態
続いては、子会社での不正の実態を見ていきます。新型コロナウイルスの影響も今後は大きく出てくると思いますので、今まで以上に子会社への管理や調査を徹底していく必要があるでしょう。
新型コロナウイルスの影響で不正リスクが高まる
20192019年1212月初旬から瞬く間に広がった新型コロナウイルス感染症の影響により、世界的に経済環境が悪化し、日本の企業も先行きが不透明で不安な状況が続いますよね。
今後も、企業の業績悪化によって、倒産リスクが増えてしまうことだけでなく、業績の悪化を隠したいという心理が働き内部不正のリスクが高まってしまうのは避けられないでしょう。
このような新型コロナウイルスの影響を受けた環境では、子会社の不正リスク管理はさらに重要になっていきます。親会社に対して自分の会社の経営はうまくいっていると見せたいために、子会社のトップが業績を実態よりも良く見せようと、実体のない多額の売上を計上したりするなどの不正を働くかもしれません。
また、子会社のトップ自身は不正報告をしていなかったとしても、親会社に業績を良く見せようと必死になり、社員たちに達成困難な目標を課すことで、子会社の社員たちが実体を伴っていない売上を計上して売上や利益目標を達成したように見せかけようと不正を働く可能性もあります。
子会社での不正発覚は4545%にも上る?
株式会社 KPMG FAS KPMG FASが20182018年66月末時点の全上場企業に対して行った調査によると、「過去33年間に企業グループで不正が発生した」と回答した企業は135135社に上り、3232%の企業で不正が起こっているという結果になりました。
これは33社に11社の割合で不正が発生しているという計算になります。そして、不正が発生したと回答した135135社のうち、「国内子会社または海外子会社で不正が発生した」と回答した企業は6161社で、4545%にのぼりました。
子会社における不正は被害金額が多額になる傾向があり、国内子会社や海外子会社で発生した不正の22割以上で損害金額が11億円以上にもなっていて、1010億円以上の大規模な被害金額が出てしまっている不正の多くは海外子会社で発生しているという実態があります。
海外子会社をはじめ、子会社は物理的にも親会社から離れていることが多く、親会社の管理や監視の目が届きにくいことによって、仮に不正が起こっていてもそれを発見するまでに時間がかかってしまうため、必然的に損害金額が多額になってしまうリスクが高まると考えられます。
参考サイト:株式会社KPMG FAS KPMG FAS
https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/2020/jp-fraud-survey-6.pdf
子会社での不正トラブルはどのように発覚するのか
子会社の不正は親会社の管理が行き届きにくいために発見が遅れる傾向にあるとお伝えしましたが、多くの不正トラブルはどのようにして発覚しているのでしょうか。
子会社での不正トラブルの発見経路として最も多いのは、国内子会社の不正トラブルの場合は「内部通報」、海外子会社の不正トラブルの場合は「会計記録などの確認や承認の手続き」です。
他にも「内部監査」や「外部からの通報」もある程度あるようです。
また、不正の内容がキックバックの受け取りのケースでは、「税務調査・当局検査」によって発覚する割合が高くなっています。キックバックによる不正は、子会社自身の取引先と結託して行っていて、実在する取引を利用して行われるため、内部監査などで発見することが難しいのです。そのため外部からの通報や税務調査などで発覚することが多いという特徴があります。
企業が不正防止のために整備している社内統制が機能することによって不正が発覚するケースも増えてきていて、内部通報によって発覚するケースも多いため、社内統制の整備や定期的な見直し、通報制度の周知の徹底などを行うことは、不正トラブルの再発防止にもつながりますし、被害をできるだけ小さく抑える事にも役立つと言えます。
子会社での不正トラブルが発生してしまう原因とは
では、なぜ子会社において不正トラブルが起こってしまうのでしょうか。トラブルが起きてしまう原因について見ていきましょう。先ほどと同じく、株式会社KPMG FAS KPMG FASが行った調査結果を参考に見ていきます。
トラブルが発生してしまう根本原因
不正トラブルが発生してしまう根本的な原因として、最も多いものは「属人的な業務運営」です。つまり、「この業務は●●さんしかできなくて、他の人は業務内容についてしっかりと把握できておらず、上司やトップにすら報告や確認もたいしてしていない状況」になっていることが問題だと言えます。
海外子会社では「行動規範などの倫理基準の未整備や不徹底」が原因として挙げられました。他にも、「親会社のコントロール不足」を不正トラブルの根本的な原因として挙げている会社もあります。
国内子会社においても海外子会社においても、不正が起こる一番の原因は、「ひとりで何でもできる」環境に置かれてしまっていることです。
例えば、長期間、配置転換がなく、一人の特定の担当者が経理を任されていたとします。長期間ローテーションがない状況で特定の担当者に業務と権限が集中していると、どうしても不正をしやすい環境と心理になってしまいがちです。
担当者の上司やトップもその担当者に任せっきりにしている状況だと、「見られている」という意識が働かないので「不正をしてもどうせバレない」と考えてしまい、普段なら不正をしないような人物であっても何かの拍子に不正を働いてしまうことも珍しくないのです。
子会社の不正トラブルを根本的に防ぐためには、子会社のトップを含めて社員たちに「自分たちは見られている」という意識を持たせ、監視体制を整えていくことが、最も効果的な防止策と考えられます。
海外子会社の不正は国内子会社以上の注意が必要
この記事をお読みになっていただいている方の中には、海外に子会社を抱える経営者の方もいらっしゃると思います。もし、今現在も海外子会社を抱えていらっしゃる、もしくは今後海外にも子会社を持ちたいとお考えの場合、国内の子会社以上に不正やトラブルに対して注意していく必要があります。
なぜなら、日本の経営スタイルはグローバルにおいては異質とも言えるからです。日本では、子会社の独立性を認めて、「信頼しているから任せる。だからあえて監視しなくても大丈夫」というスタイルを取っていることが多いですが、海外の文化にはまずありませんし、本当の意味で子会社を信頼して任せるという考えもありません。
日本では、「会社への忠誠心」が前提となっています。少なくとも社員の私利私欲によって不正やトラブルを起こすことはあまりないと考えられてきました。おそらくその背景には日本人はビジネスの目的を単なる金儲けではなく、社会的な意義があるものと考えてきたことも関係しているのでしょう。日本人の経営者の多くはこの考え方が染みついているため、「子会社は親会社への忠誠心があるから不正なんてしないだろう」と心のどこかで考えてしまっているのです。
一方で、グローバルでは「会社への忠誠心」という考えはありません。逆に会社から自分への忠誠心として給料や地位が与えられているという考えがあります。自分が期待している給料や地位よりも会社の評価が低ければ、自分のスキルを武器にして、たとえライバル会社であっても躊躇なく転職していきます。日本においてはあまりしっくりこない行動であっても海外では普通のことなのです。
不正やトラブルにおいても、「会社への忠誠心」をもとに性善説で考えていると痛い目を見ることになります。海外においては機会を与えてしまうと不正が行われるくらいの覚悟が必要です。「お金を自由に動かせる機会を与えてしまったら海外では不正が起きて当然」といったくらいの感覚が必要なのです。
子会社での不正トラブルが怪しいと感じたらすぐに調査を
国内であっても海外であっても、子会社における不正やトラブルはいつ起こってもおかしくありません。むしろ、今現在もすでに起きていて、親会社が気付いていないだけという可能性もあります。
子会社の不正について少しでも怪しいと思ったり、不正の通告を受けたりした場合は、放っておかずすぐに調査を開始することが重要です。
調査をする際は、まずは事実確認の調査からはじめて、被害額はいくらになりそうなのか、誰が関与しているのか、手口はどのように行われていたのか、など詳細を確認していきます。
不正調査を行う際は、社内の人材だけで行うことも不可能ではありませんが、時間と労力を割くことになるので通常業務に支障をきたしてしまいますし、なにより調査の精度が落ちてしまいます。できるだけ不正調査を専門に行っている調査会社に依頼して行うようにしましょう。
まとめ
子会社が不正やトラブルを起こしてしまった場合、金額的なダメージだけでなくグループ会社全社の社会的信用問題にまで発展してしまう恐れがありますので、重大な影響が出てしまうでしょう。
内部統制を運用していかなければいけないはずの子会社の経営陣や経理部が不正を行っていた場合は、内部統制そのものを見直していかなければなりません。
子会社においてトラブルを起こさないためには、不正を犯すに至る動機や、原因、環境などをもう一度見直し、実効性のある対策を講じていかなければなりません。
定期的に社内調査を行うことも、抑止力になることが期待できますので、トラブルが起こる前から調査を徹底していくなどの対策も十分に検討していくことが重要と言えます。