時々ニュースで「有名な大企業の社員が会社のお金を横領していた」というニュースを耳にして驚いたことがある人も多いでしょう。 しかし、横領事件などの社内不正は、どれだけ充実した体制を整備しても100%防止することはできないため、どの会社でも起こり得る事態だと認識する必要があります。

そして、社員のことを常日頃から疑ってかかっている経営者の方は少ないため、横領の被害に気がつくのに時間がかかってしまい、気がついた時には経営にダメージを与えるほどの高額なお金が横領されてしまっていた、ということもありえるのです。

なんとなく不自然な帳簿の記録、取引先とのやり取りでどこか食い違う金額、ゴミ箱にあった見慣れない領収書・・・。少し気がかりになることがあっても日々の忙しさに忙殺されて気に留めずにいる経営者の方も多いかと思いますが、少しでも不審な点があった場合、早めに調査をして事実を確認することが大切です。

そして、万が一横領が起きているとわかったら、適切に初期対応を行っていかなければいけません。 今回は、社内で起きうるよくある横領の事例や、横領が発覚した時に会社が取るべき対応とその流れ、当該社員に取るべき処分について解説していきます。

社内での横領のよくある事例

ニュースで話題になる横領事件が大企業で起きたものばかりのため、横領事件は大企業のような会社に起きやすい事件だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には中小企業やベンチャー企業など多くの会社で起こっています。 ここでは、被害金額の大小にかかわらず会社でよくある横領被害の事例をご紹介していきます。

営業担当者による横領

営業担当など、売上金を回収する集金担当者が横領する事例は多数報告されています。 営業担当者が取引先から集金した売上金を横領し、会社には未収金として報告するというケースです。また、集金の担当ではない社員が集金の担当になったと取引先に嘘をついて騙し、売上金を横領する事件もあります。

店長や支店長による横領

店全体の売り上げを一任されている雇われ店長や支店長が横領するパターンもあります。店長や支店長が横領している場合、その店全体の売り上げが横領の対象になりますので、被害金額は相当なものになります。

横領に気がつくのが遅れて会社のお金を使い込まれてしまったら、会社の運営に大きなダメージを与える可能性も大きくなるため、少しでも不審な点に気がついたらすぐに調査をするべきと言えます。 横領の方法としては、会社に店の売り上げを実際よりも少なく報告して差額を横領するケースが最も多く、架空の請求書を作って出金したお金を横領するケースも報告されています。また、お店の商品や金券を横領してネットで販売する事例もあります。

役員クラスの社員による横領

役員クラスの社員ともなると、経営者としては全幅の信頼を置いているかと思いますが、実際には役員クラスの社員による横領も珍しくありません。 偽造や改ざんした接待費などの領収書で経費を不正に請求したり、業務とは関係のないものを経費で購入して売ったりする事例があります。

また、ベンチャー企業や中小企業の中には、役員クラスの社員が経理も同時に担当していることも多く、個人の口座に会社から不正にお金を振り込むケースもあり、被害金額がかなり高額になることもあります。

社内での横領が発覚したときの会社が取るべき対応とその流れ

社内で横領が起きているという噂を耳にしたら、誰でもショックを受けますし、パニックになって疑わしい社員をいきなり問い詰めてしまうかもしれません。

しかし、横領の可能性が浮上しても焦って犯人だと決めつけたり、証拠もないのにいきなり問い詰めたりするのは危険です。証拠がなければ言い逃れされてしまいますし、証拠を隠されたり消されたりする可能性もあります。 横領が起きているかもしれないとわかったら、適切な初期対応を取ることが大切です。この章では、対応の具体的な内容とその流れについてみていきましょう。

事実関係の調査

社内での横領の噂を耳にしたら、まずは事実関係の調査を行いましょう。 「本当に横領をしたのかどうか」「怪しいと思われる社員は誰なのか」「なぜ怪しいのか」「横領されたのはいくらなのか」といった点を確認してください。

ここを怠ってしまうと被害金額が明確にならずに損害賠償請求もできなくなりますし、具体的な証拠集めもスムーズにできなくなってしまいます。

客観的な証拠集め

事実関係の調査が終わったら、次は客観的な証拠を集めていきます。会計記録やパソコン上のデータ、防犯カメラの映像など、横領を裏付ける客観的な証拠を集めましょう。 取引先と結託して横領をしているような場合は、取引先とのやり取りのメールも証拠になるでしょう。 なお、証拠集めについては不正調査に詳しい探偵に調査を依頼するのがベストです。

素人が無理に証拠集めの調査をしてしまうと、調査していることがバレて犯人に証拠を隠されてしまうこともありますし、重大な証拠に気がつかずにスルーしてしまうこともあります。

同僚や関係者への聞き込み

同僚や取引先などの関係者に聞き込みを行うことも有効です。ただし、こちらも素人が行うと警戒されてしまうリスクが高いため、探偵に調査を依頼するほうが安全です。潜入調査という形で、犯人につながる証拠や横領の事実の証拠となる証言を掴んでもらえる可能性が高くなります。 なお、聞き込みを行う同僚など関係者を選ぶ際にも注意が必要です。

むやみに聞き込みを行ってしまうと、万が一横領した社員と繋がっている場合、調査のことがバレて、証拠を隠されてしまう可能性がありますので人選や調査の順序は慎重に検討しましょう。

本人への聴取

証拠集めが進められたら、いよいよ横領をしたと疑われる社員本人への聞き取り調査です。この聴取の段階では横領の事実を認めさせることをゴールに行うことになります。 本人への聴取を行う際にはいくつかの注意点がありますので、次の章で詳しくお伝えしていきます。

横領を行った社員本人へ聴取を行うときの注意点

横領が社内で発覚した際の対応として本人への聴取は非常に重要なステップです。ここでミスをしてしまうと、それまでの初期対応が無意味になってしまう恐れもありますので、慎重に行っていきましょう。 ここでは、聴取を成功させるために気をつけるべき注意点をまとめていきます。

聞き取りの予告はしない

聴取をするにあたっては、前もって本人に「話があるからこの日予定を空けておいて」と伝えてしまうと、横領の事を聞かれると警戒されて証拠を隠されたり、逃げられたりする可能性もありますので、予告はせずに行うのが良いでしょう。

聞き取った内容は記録しておく

聞き取り調査を行う際は、必ず本人とのやり取りすべてを記録しておいてください。できれば、ボイスレコーダーとパソコンでの記録と両方行っておくと安心です。 聞き取りは、質問する係と記録する係の最低2人で対応すると焦らずに済みます。また、事前に質問する内容をまとめておくと質問漏れを防ぐことができますよ。

ボイスレコーダーは電池切れや声が小さくて聞こえないなどの不具合が出る可能性もありますので、事前にチェックしたり2台以上用意したりして万全な体制で臨むのがいいですね。

横領を否定されたら

本人に聴取しても横領の事実を認めずに否定されることも十分に考えられます。そのときのために、本人に話を具体的に聞き出しておいて、やり取りを全て記録しておくことで、後から精査した時に矛盾点に気がつくことができるでしょう。

最初は横領の事実を認めなくても、矛盾点を突いていったり客観的な証拠を突き付けたりすれば、最終的には横領の事実を認めることもあります。 もし、矛盾点を見つけることが難しそうな場合は、証拠収集の調査を依頼している探偵に相談しながら進めていくと、より専門的な観点からアドバイスをもらえるのでお勧めです。

横領を認めたら

犯人が聴取の段階で横領の事実を認めてくれたとしても気を緩めてはいけません。最初は素直に認めていたと思っていても、あとになって処分が怖くなり言い分をひっくり返され否定される可能性もあります。

そこで、横領を認めている場合でも、認めているうちに横領を認めるということ、いつ、どこで、何を横領したか、横領した金銭の返還する意思があることなどを正確に記録し、署名をもらっておきましょう。

可能であれば、横領の事実を認める内容の始末書を本人の直筆で書かせておきましょう。パソコンで打ち込んで印刷したものにサインだけさせたものだと、あとから言い訳されるリスクがありますので、しすべて直筆で書かせるのがベストです。

横領の証拠が揃い本人も認めたらどのような対応が取れる?

調査や聴取の結果、社員による横領が明らかになり、本人も認めて証拠も揃ったら、どのような対応を取っていけばいいのでしょうか。

横領した社員への対応は主に3つ

横領した社員に対しては【損害賠償請求】【解雇】【刑事告訴】の3つの対応が考えられます。 それぞれ、注意点や知っておくべき基礎知識がありますので、次の章から詳しく見ていきましょう。

損害賠償請求する際の注意点

横領を行った社員に対してとれる対応の1つ目として、損害賠償請求があります。横領されたお金の支払いや、物品の返還を求めることになります。

損害賠償請求をする際の注意点としては、横領した社員が既に横領したお金を使い切っている可能性が高く、賠償するのに十分な資産がないことも少なくありません。 そのため、社員との話し合いの中で分割払いの取決めをして法的書面に残しておき、少しずつ回収していくことが現実的な解決になるでしょう。

なお、「給料から天引きすればいいのでは?」という質問をよくいただきますが、給料から天引きして賠償させるのは基本的にはNGです。 たとえ横領した犯人である社員であっても、労働基準法に規定された「賃金全額払いの原則」が適用されますので、勝手に給料の一部を差し引いて損害賠償請求のお金を支払ってもらうことが禁止されているのです。

例外としては本人の同意を得ていれば、給料と損害賠償請求権とを相殺してよいことにはなっていますが、会社に脅されたり強制されたりしたとその社員が訴えた場合、会社が不利になりますので、給料からの天引きはお勧めできません。

解雇する際の注意点

横領した社員には辞めてもらいたいと思う経営者の方がほとんどでしょう。もちろん、横領を理由に解雇するという選択もあります。 ただし、たとえ横領した社員であっても解雇は簡単に行うのはリスクが大きすぎます。しっかりと手順を踏んで慎重に行うようにしてください。 まず、就業規則に解雇事由についての記載があるか、解雇事由に該当する行為なのか、という点を確認しましょう。

このあたりの判断はかなり難しくなっていますので、法律のプロである弁護士に相談しながら判断するのが安全です。解雇や懲戒解雇ができるのかどうか、それらを行うためにどのような手続をとらなければならないか、解雇が難しそうな場合、ほかにどのような手段を取るべきかなど、弁護士に相談することで安心して進めていくことができるでしょう。

刑事告訴の方法とメリット

刑法が定める「業務上横領罪」という刑事責任を問うという形で刑事告訴をする対応も可能です。横領を行った社員に対して刑事上の責任を問いたい場合、警察または検察に対して告訴する方法で行います。

具体的な方法としては、横領行為の内容や被害額などを具体的に説明した告訴状などの書面を出します。その際、横領の事実を証明できる客観的な証拠と合わせて提出すると警察もすぐに動いてくれる可能性が高くなります。

なお、刑事告訴の対応を取ることで横領された金銭の賠償を受けられる可能性が高まりますし、ほかの社員たちに対して会社の対応を示して社内秩序を維持できるという2つのメリットもあります。 会社が横領などの社内不正を働いた社員に対して毅然とした対応をとることで、同じような社内不正や違反行為が起こるのを防ぐことにもつながります。再発防止という意味でも刑事告訴の対応は検討してもいいでしょう。

まとめ

信頼していた社員に会社の大切な資産である金銭を横領されたことがわかったら、裏切られたという怒りと悲しみから、つい感情的になり、いきなり当該社員を問い詰めてしまったり、証拠がない状態で思い込みで処分したりする危険性があります。

しかし、証拠がない段階では言い逃れされたり、逆に会社が訴えられたりする可能性もあります。危機に直面した時こそ、冷静かつ戦略的な対応を心がけることが大切です。 社内での横領が発覚したら、不正調査を得意としている探偵や、労働問題に強い弁護士など専門家に相談しながら慎重に対応を取っていくようにしてください。