ブラック企業とは、サービス残業あたりまえ,休日出勤あたりまえ、上司からのパワハラモラハラあたりまえ、という企業を指します。 ブラック企業だというレッテルを貼られてしまったら、採用活動に大きな支障が出ることは避けられないでしょう。 もしインターネット上で「ブラック企業」だという誹謗中傷を受けたら、どのように対処すればいいのでしょうか。名誉棄損で訴えることはできるのでしょうか。

今回は、ブラック企業という誹謗中傷の書き込みが名誉毀損にあたるのかどうか、ブラック企業という誹謗中傷を受けたらどのように対処するのがいいのか、適切な対処のために必要な事は何なのか、について詳しく解説していきます。

「ブラック企業」という誹謗中傷の書き込みは名誉毀損にあたる?

自分の会社が「ブラック企業だ」とインターネット上で書き込まれてしまったら焦ってしまいますよね。取引先からどう思われるか、ユーザーや顧客からの信頼は大丈夫か、採用活動に支障は出ないか心配なことばかりが浮かぶと思います。

インターネット上でそのような誹謗中傷の書き込みをしている人は匿名だからこそ軽率に投稿しています。このような誹謗中傷の投稿は名誉毀損にあたるのでしょうか。

具体的な内容が書いてあれば名誉毀損にあたる

誹謗中傷の内容が「◯◯会社では△△が行われているからブラック企業だ」と具体的な内容が書いてあるうえでブラック企業と書かれていれば名誉毀損にあたる可能性がでてきます。

他にも「セクハラやパワハラが横行しているのでブラック企業だ」「残業前にタイムカードを押させてサービス残業を行わせている」など具体的に書き込まれていれば名誉毀損にあたる可能性があります。

具体的な内容がなければ侮辱罪が適用される可能性

「ブラック企業」というワードだけで具体的な内容が書かれていなければ、名誉毀損にあたることは考えにくいです。その場合は侮辱罪にあたる可能性があります。

一般的には労働法に違反しているような会社をブラック企業と言いますが、単に書き込みをした犯人がその会社が気に食わなくてブラック企業と表現している場合もあり、そうなると名誉棄損とは言えず、侮辱罪が適用されます。 悪口ではあるけれど、事実と言えるほどの具体性がない場合は名誉毀損ではなく侮辱罪となり、刑罰は軽くなります。

大きな実害が起きていれば偽計業務妨害罪にあたる可能性

インターネット上でブラック企業と書き込まれ、その結果、売り上げが大幅に下がってしまったり、廃業に追いやられてしまったり、採用活動がまったくうまくいかずに人材確保が困難になってしまったりなどの業務妨害が行われた場合は、書き込みをした犯人が偽計業務妨害罪に問われる可能性もあります。

名誉棄損にも侮辱罪にもならないことも

名誉毀損にも侮辱罪にもあたらないケースもあります。それは、書き込まれた内容が事実だった場合です。

仮に「●●会社はサービス残業を毎日のようにさせて、残業代は払わないブラック企業だ」という書き込みがあり、それを証明できる証拠があれば名誉毀損には当たらなくなる場合があります。 もしブラック企業の実態が事実だとしたら、それは企業が法律違反を犯していることになり、知られるべきことなので、当然と言えば当然でしょう。

名誉棄損について知っておくべきこと

名誉毀損に問えるかどうかを書いてきましたが、名誉毀損についてここではもっと知識を深めておきましょう。

名誉棄損罪とは

名誉毀損罪とは刑法で定められている罪のことです。公然と事実を摘示し、人もしくは法人の名誉を毀損した場合に罪に問われます。 基本的にはその事実の有無にかかわらず罪に問われますが、法人の場合、内容が事実となると名誉毀損での訴えが認められないこともありますので注意が必要です。

名誉棄損にあたるかどうかのポイント

名誉毀損罪が成立するかどうかのポイントとしては、事実を摘示したことによって相手の社会的評価を下げていることと、具体的な内容が書かれていて一個人の感想や意見とはとらえられないことが判断基準になります。

例えば、その会社のことを気に食わないと感じている人が「●●会社の社長はウザい」などと書いていても、ただの一個人の意見や感想なだけであるとみなされるので名誉毀損とは言えません。 そして、名誉毀損とは個人や法人の社会的評価を低下させることを意味しますので、ブラック企業という誹謗中傷の書き込みによって、それを真実かどうかわからない人たちからの社会的な評価が下がってしまったと判断できるときに、名誉毀損罪が成立する可能性が高くなります。

先ほどおの「●●会社の社長がウザい」などのようにただの悪口でしかない内容だと、その人・その会社の社会的評価を下げているとまでは言えないため、名誉毀損罪に当たる可能性は低くなります。

名誉棄損の罰則

名誉毀損の罰則は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。 また、民事として訴えるのであれば、誹謗中傷の書き込みが実際に損害を及ぼしたと証明できれば損害賠償請求で賠償金を払わせることが可能になります。

名誉棄損罪の時効は?

名誉毀損罪の時効は3年です。刑事罰で訴えたい場合はできるだけ早く行動を起こすのがいいでしょう。

なお、民事事件として損害賠償請求する場合は、名誉毀損行為が発生してから20年間の猶予がありますので、もし3年以上過ぎてしまったけれど何かしらの賠償を請求したい場合は民事事件として訴えていく方法もあります。頭に入れておくといいでしょう。

「ブラック企業」という誹謗中傷に対してどのように対処すべき?

自分の会社がブラック企業だとインターネット上で誹謗中傷を受けてしまったら、ショックと怒りから書き込みをした犯人に対して何かしらの仕返しをしたいと考えてしまうことも多いのですが、まずはその書き込みへの適切な対応を最優先することが重要です。

あなたの会社に不利益をもたらす誹謗中傷の書き込みはできるだけ早く対処しないと二次災害ともいえる被害を招いてしまうリスクがあります。この章では、具体的な対処法をお伝えしていきます。

サイトに削除請求する

まずは、誹謗中傷の内容が書き込まれているサイトへ削除依頼を出しましょう。 サイト運営者が全く対応してくれない場合は弁護士に相談して進めていく方法もあります。 なお、サイトへの削除依頼については、手順が各サイトに書かれていますので、それに従ってください。たとえば、みんしゅうの削除依頼はこのようなフォームからできます。

サイトに開示請求する

誹謗中傷の書き込みをした犯人に損害賠償請求を行いたい場合は、犯人を特定するために、裁判所に対して書き込みがされたIPアドレス等の情報を開示するよう請求の手続きを行います。

裁判所から開示請求を認められればIPアドレスの情報を取得することができ、これをもとにプロバイダを特定することが可能になります。 詳しくは、【発信者情報開示請求して誹謗中傷投稿者を特定しよう!流れとポイント】の記事を参考にしてみてください。

プロバイダに情報開示請求する

IPアドレスの情報が手に入ったら、プロバイダを特定します。プロバイダの特定にはこちらの【ドメイン|アドレスリサーチ】に入力すれば簡単にプロバイダを特定することができます。

プロバイダ提供会社にはIPアドレスごとに氏名や住所などの個人情報が保管されているので、それらの開示請求を行うことで、誹謗中傷の書き込みをした犯人の特定ができるようになります。

損害賠償請求をする

誹謗中傷の書き込みをした犯人が特定できたら、警察に名誉毀損として通報し罰則を与える請求をしたり、民事事件として損害賠償請求を行ったりできます。 損害賠償請求においては、企業の場合は実際に発生した損害を算定することで金額を決定します。損害賠償請求をする際は誹謗中傷事件に詳しい弁護士に相談するのがいいでしょう。

犯人が社員だった場合

「●●会社はブラック企業だ」という誹謗中傷の書き込みをしたのが、自分の会社の社員であるということは珍しくありません。経営者としてはとてもショックですが、ここは冷静になって適切な処置を行いましょう。

会社が定めている就業規則の罰則に従って、誹謗中傷を書き込んだ社員の処分を決定してください。このような事態に備えて、インターネット上の書き込みについての就業規則を定めておくことが大切です。ただ、就業規則に定めがあっても必ず懲戒解雇できるとは限りませんので注意してください。 懲戒処分については慎重に行うことが大切です。

社員の処分についてはこちらの【辞めさせたい従業員がいる場合の対処法と解雇するリスクとメリット】を参考にしてみてください。

まとめ|誹謗中傷を受けたらまずは名誉棄損にあたる証拠資料を集める

ブラック企業であるという誹謗中傷を受けたときはまず冷静になって投稿を削除してもらうことが先決です。 そのあとに、誹謗中傷の書き込みをした犯人の特定、特定後に損害賠償請求や刑事罰の請求を行う手順となります。

なお、損害賠償請求をする際や刑事罰で訴える場合、投稿された内容が名誉毀損にあたるかどうかの証拠資料をそろえることが必要になります。 投稿された内容と事実がどう違うのかを証明しなければならないので、法律に詳しいことと調査力に優れている必要があります。

個人でそれらの証拠を集めるのは至難の業ですので、誹謗中傷問題に詳しい調査会社に依頼し、証拠を取ってもらうのがベストです。そのうえで、インターネットトラブルに精通している弁護士に依頼して法的処置を取ってもらうといいですね。 今回の記事が少しでもお役に立っていれば幸いです。