従業員の横領で警察に受理してもらい刑事告訴を成功させるポイント

KW従業員によって会社のお金が横領されたことが分かった場合、どのような対応を取るべきなのでしょうか。

 

横領事件が起きたとき真っ先に考えることは、「横領されたお金を返してもらいたい」ということですよね。もちろん、犯人の従業員に損害賠償請求をすることは重要な対応ですが、なかなか返済をしてもらえなかったり、そもそもの罪を認めなかったりする場合もあります。

 

そんなときにとれる対応として刑事告訴があります。刑事告訴をすることで、横領した従業員から横領金を返済してもらえる可能性が高くなりますし、刑事裁判によって犯人に刑事罰を与えることもできます。

 

ただ、刑事告訴を成功させるためには、警察の協力を得ることが必要不可欠です。そして、警察は慢性的な人手不足になっているため、よほど被害金額が大きくなければ警察の協力を得ることは簡単ではありません。

 

そのため、警察に協力してもらい、告訴を受理してもらうためにはいくつかのポイントを押さえておく必要があるのです。

 

今回は、従業員に横領された場合に刑事告訴をするメリットや手続きの流れ、警察に告訴を受理してもらい刑事告訴を成功させるためのポイントについてご紹介したいと思います。

 

 

横領した従業員を刑事告訴する3つのメリット

この後にご説明するように、刑事告訴することは手続きが多く決して簡単にできるものではありません。そのため、「刑事告訴ってする意味あるのかな?」と思ってしまう方も多いと思いますが、横領した従業員を刑事告訴することは大きなメリットもあります。

 

ここでは、刑事告訴するメリットとして3つ主なものを挙げていきます。

 

 

横領されたお金の賠償につながりやすい

刑事告訴をするメリットとして、横領金の賠償を受けられる可能性を高められるという点が挙げられるでしょう。刑事告訴は横領金の返済を促す有力な手段の1つなのです。

 

なぜなら、業務上横領の刑罰は、横領金を返済したかどうかで刑の重さが変わってくるため、犯人としては刑の重さを軽くしたいがために横領金を賠償しようという心理になるからです。

 

たとえば、100万円以上の横領の場合、有罪になれば実刑になる可能性が高いですが、示談にして横領金を返済することができれば執行猶予になることは珍しくありません。

 

仮に実刑になっても、横領金を返済していれば実刑の期間が1年ほど短くなるケースも多いのです。ことが多いです。そのため、刑事告訴をすることで、犯人は自分の刑をできるだけ軽くするために誰かにお金を借りてでも横領金を返済しようという気持ちを掻き立てることができます。

 

 

横領した犯人に罰を科すことができる

刑事告訴をすることで犯人に処罰を科すことができるというメリットもあります。

 

警察が告訴を受理するかどうか、裁判で罰が与えられるかどうかは、警察による捜査の結果次第にはなってしまいますが、犯人の刑事責任を明確にするきっかけになることは確かです。

 

なお、業務上横領罪の法定刑は、刑法253条で10年以下の懲役と定められています。

 

刑罰の目安としては、被害金額によって変わっていて、

・被害金額100万円以下:執行猶予

・被害金額500万円:2年の実刑

・被害金額1000万円:2年6か月の実刑

・被害金額3000万円:3年の実刑

となっています。

 

 

社内の秩序を守ることができる

刑事告訴をすることは、横領という重罪に対して社内でけじめをつけ、秩序を守るという意味でもとても重要です。

 

横領事件が起こったら、懲戒解雇を検討するのはもちろんですが、それ以上の厳しい処罰がされないとなると、他の従業員たちのモチベーションが下がる原因にもなりかねませんし、横領を含めた不正が繰り返されてしまうリスクも高くなります。

 

横領事件が起こってしまったときに、社内のモラルや秩序を保つことも念頭に置いて対応をすることはともて大切なことなのです。そのためにも、刑事告訴をする意味があると言えます。

 

 

横領した従業員を刑事告訴する手続きの流れ

それでは、実際に横領した従業員を刑事告訴するときの具体的な流れについて確認していきましょう。

 

 

横領した証拠と犯人である証拠を集める

まずは、横領したのが事実かどうかを判断できる証拠を集めなければなりません。そして、その横領をしたのがその従業員であるという明確な証拠も必要です。

 

証拠収集については、素人ではなかなかハードルが高いですし、犯人にバレないように調査を進めるのも難しく、十分な証拠を集めることもできないと思います。そのため、企業内不正調査を専門としている探偵に依頼するのがベストです。

 

 

弁護士に相談する

探偵による調査が完了し、横領の証拠が揃ったら、次は弁護士に相談します。

 

自力で刑事告訴をすることもできなくはありませんが、自社での刑事告訴では警察がなかなか積極的にとりあってくれないため、弁護士に協力を要請するのがいいでしょう。弁護士に刑事告訴を依頼することで、必要な書類を準備してもらえますので、刑事告訴がスムーズに進んでいきます。

 

なお、企業内の横領事件に強い弁護士を見つけられるか不安な場合は、証拠収集の調査をしてもらった探偵に相談してみると、信頼できる弁護士を教えてもらえる場合もあります。

 

 

告訴状を郵送する

刑事告訴は告訴状を警察に提出することで本格的にスタートします。告訴状とは、犯人が「いつ」、「どのようにして」、「いくら」横領したかという業務上横領に該当する事実を記載した文書で、これにより警察に処罰を求めていきます。

 

告訴状の書き方はかなり専門的な知識が必要となりますので、弁護士に任せるのが一般的です。告訴状を書いてもらったら、その後警察に郵送します。

 

 

警察と打ち合わせをする

告訴状を郵送したら、警察に出向いて打ち合わせを行います。

 

横領事件の場合、その多くが複数回にわたって継続的に横領行為を行っていますので、「どの横領行為を処罰の対象にするか」ということについて警察と打ち合わせを行っていきます。

 

なぜならば、警察は犯人を刑事裁判にかけたのに無罪になってしまったら警察のメンツが立たないと考えているため、確実な証拠があり、確実に有罪にできると判断できる分だけを処罰の対象としたいと考えているからです。

 

そのため、有罪にできるような確実な横領の証拠を集めることが重要なのです。

 

 

告訴状を受理してもらう

警察が有罪にできると判断した場合は、告訴状を受理してもらえます。

 

ただし、警察に受理してもらうことはそう簡単なことではありませんので、警察との打ち合わせを念入りに行い、告訴状を正式に受理してもらうことが、最初の目標となります。

 

 

取り調べに参加する

告訴状が受理されると警察による捜査が始まります。警察の捜査が開始されたら、横領事件の被害者として会社側も警察の捜査に協力し、取り調べを受ける必要があります。

 

その際、追加で提出できる証拠を取れていれば提出しましょう。取り調べへの協力は社長や役員が参加することも多くなってくるでしょう。

 

 

送検される

警察で犯人に対する取り調べが終わったら、事件が検察庁に送致されます。

 

 

検察庁での捜査が行われる

検察庁に送致されたら、検察庁でも再度捜査を行います。このときも会社側は事件の被害者として取り調べや調書の作成などに協力していくことになります。

 

検察庁での捜査が終わったら、「起訴」か「不起訴」が決定されます。起訴になれば刑事裁判が行われることになりますが、証拠が不十分だったり、被害金額が大きくなかったりした場合は不起訴になって刑事裁判が行われないという結果になってしまいます。

 

 

裁判が行われる

無事に起訴されれば、裁判所で刑事裁判が行われ、裁判官の判断によって犯人が有罪かどうか、刑はどうなるのかが決定されていきます。

 

 

横領事件の刑事告訴を成功させるためのポイント|警察を動かすコツ

刑事告訴の流れについて見てきましたが、刑事告訴を成功させるためには警察をいかに動かせるかどうかにかかっています。

 

ここでは、刑事告訴を成功させるためのポイントについて見ていきましょう。

 

 

証拠の確保を迅速かつ確実に行う

何度もお伝えしていますが、刑事告訴をする際は、犯人が横領をしたという確固たる証拠をきっちり集めることが重要です。

 

警察としては、横領事件が起きていたとしても十分な証拠がなければ最終的に刑事裁判にかけることができず、メンツを失うことになってしまいますので、証拠が提示できなければ警察は動きません。必要な証拠がないと、そもそも告訴状を受理してもらうことができず、刑事告訴がスタートできないのです。

 

そして、証拠収集においては迅速に行うことも重要なポイントです。スピーディーに調査を行わなければ犯人によって証拠が隠滅されてしまうおそれがありますし、関係者に聞き取りを行う際も、時間の経過とともに人の記憶があいまいになり、正確な情報が聞き取れなくなってしまいます。

 

ただ、会社の従業員や社長が本来の業務に加えて証拠収集の調査をするのはかなりの負担になりますし、証拠の収集の仕方を誤れば、犯人にバレて証拠を隠滅されてしまうことになります。

 

そのため、証拠収集は信頼できる探偵に依頼するのがお勧めです。

 

 

警察への進捗確認を行う

警察は慢性的に人手が足りていないので、それほど大きな横領事件でなければ告訴された事件の捜査に積極的になってくれない場合もあります。

 

そのため、警察にしっかりと動いてもらい捜査を進めたもらうためには、警察への進捗確認を頻繁に行うことが必要です。

 

警察に郵送した資料が届いたかどうか、届いた資料を確認してもらえたかどうか、被害者の調書の作成は終わったのか、犯人の呼び出しはいつするのかなど、しっかりと確認して進捗を把握するようにしてください。

 

また、横領が複数回あった場合は、エクセルで項目を一覧で見やすくして提出することも大切です。エクセルでまとめるべき項目としては、横領の日時・横領行為の内容・被害金額・横領を裏付ける証拠、などです。

 

このようなエクセルを見やすく、かつ早めに準備することで、警察を動かすきっかけとできるのです。

 

 

損害賠償請求については話さない

意外なポイントですが、警察に対して損害賠償請求の話をしないというのも重要です。

 

普段あまり意識しないと思いますが、事件には「民事事件」と「刑事事件」の二つに分けることができます。損害賠償請求などは民事事件、業務上横領罪などは刑事事件となります。そして、警察は民事不介入の原則に基づいて、損害賠償請求などの民事事件には関与できないことになっています。

 

そのため、警察の中には、損害賠償請求を含めた民事の話を嫌がる人も多く存在します。「本来の自分たちの仕事とは関係がないし、言われたところでこちらとしては何もできない!」と思ってしまうのでしょう。

 

損害賠償請求をして横領金を返済してもらうことを考えるのは、横領された被害者側としては当然なのですが、警察としては、「民間トラブルのために動きたくない」と考えるケースも多いのが実状なのです。

 

そして、刑事告訴は警察に協力してもらえなければ話が前に進まないため、警察が不快に思う話題は避けるのが賢明です。そのため、警察では、横領金の返済を求める話についてはなるべくしないほうが告訴をスムーズに受理してもらえる可能性が高まるでしょう。

 

 

まとめ

万が一、自分の会社の従業員が横領事件を起こしてしまった場合、損害賠償請求や刑事告訴、懲戒処分などいろいろな対応を迫られてしまうでしょう。

 

刑事告訴はそのうちの一つですが、損害賠償請求を成功させるためにも、社内の秩序を保つためにもとても意味のある対処法です。そして、刑事告訴を成功させるためには、客観的な確固たる証拠が必要不可欠です。

 

証拠収集や証拠を掴んだ後も対応も含めて、一度専門家に相談して迅速に対応を進めていくことをお勧めします。