パワハラをする社員、勤務中にゲームをしてサボる社員、能力が著しく欠如して業務に支障をきたしている社員。

どの社員も会社にとっては「問題社員」であり、経営者としては会社の評判が落ちてしまうリスクや、お客様とのトラブルの可能性を考えるとなんとかして辞めさせたいと考えるでしょう。

しかし、むやみに辞めさせてしまうと、辞めさせた社員が不当解雇として会社を訴える可能性も高く、会社としては辞めさせることで別のトラブルを抱えてしまうことになります。問題社員を辞めさせることは決して簡単にできることではないのです。

そこで今回は、辞めさせることを検討すべき問題社員のタイプや、問題社員を辞めさせる具体的な方法、トラブルを回避するために注意すべきポイントについて解説していきます。 不当解雇として訴えられるリスクを最小限に減らしたうえで、より確実に問題社員を辞めさせて、会社と他の社員たちを守っていきましょう。

問題社員であっても辞めさせるのはかなりハードルが高い

ドラマなどで「君はもう、明日から来なくていいから!!」とクビにされているシーンを見たことがある人も多いかと思いますが、現実世界では社員の解雇は決して簡単にできるものではなく、かなりハードルが高いです。

労働契約法では解雇が認められるのは、客観的にみて合理的な理由が存在し、社会一般の常識で考えた際に妥当であると判断できる場合に限るとしています。 「うちの問題社員は社会一般の常識からからみて合理的な理由だから解雇できる」と考えてしまいがちですが、実際の解雇制度においてはこの点を非常に厳しく見られ、かなりのケースで会社側には非がないと思えるような場合でも不当解雇という判断がされてしまっています。

たとえば、ある会社の社員が通勤手当を不正受給していたことを理由に解雇を行ったケースや、ある会社の上司が部下にハラスメントをしたことを理由に解雇をしたケースでは、どちらも「不適切ではあるものの、解雇処分は重過ぎる」として無効の判断がされています。 このことからもわかるように、現在の日本においては一度雇った社員を辞めさせることはかなりハードルが高く、慎重に手順を踏んで行っていかなければいけないのです。

問題社員に当てはまる社員とは?問題社員のタイプ

一言で問題社員と言っても、そのタイプは様々です。 「うちの社員に問題をよく起こしている社員がいるけれど、問題社員とまで言えるのだろうか」 「できれば辞めさせたいけれど、辞めさせるほどの問題社員なのだろうか」 と判断に困る場合もあると思います。 ここでは、代表的な問題社員のタイプを5つピックアップしてご紹介します。

仕事をサボる

職務怠慢で、会社が支払っている給料分の働きをしない社員は、会社にとっては迷惑な存在ですよね。無断欠勤をしたり頻繁に遅刻早退を繰り返したり、勤務中にこっそりスマホゲームをしてサボったりという社員は明らかに問題社員と言えるでしょう。

いきなり解雇することは難しいですが、就業規則違反に該当する可能性が高いため、なんらかの懲戒処分を段階的に行うことはできるでしょう。

著しく能力が不足している

著しく能力が低く、簡単で基本的な業務さえ十分にこなせない社員も問題社員と言えます。このような社員を抱えてしまうと、ほかの社員たちがフォローしなければいけなくなってしまうので、優秀な社員が足を引っ張られてしまいますし、会社も求める業務をしてもらえないのに給料だけ支払わなければならず、雇っていることにデメリットしかないでしょう。

このタイプはいきなり懲戒処分を行う前に、指導や研修をしっかりと行ったうえでそれでも改善が見られない場合に処分を検討していくことが大切です。

過剰に権利ばかり主張する

過剰に権利ばかりを主張する社員も会社にとっては辞めてもらいたいと思う対象でしょう。会社のちょっとした不手際やミスをはたしたてたり、上司からの指示や注意をパワハラ呼ばわりして騒いだり、保障についての要求が激しかったりする社員は会社にデメリットしかもたらしません。 このタイプの社員は、権利を盾にしているため非常に扱い方が難しく対応も慎重に行う必要があります。

社内の風紀を乱す

同僚や部下にセクハラやパワハラを行って社内の秩序を乱す社員は、他の優秀な社員が辞めてしまうリスクが高くなるため、経営者にとってもっとも迷惑に感じる部類の問題社員といえるでしょう。

他の優秀な社員が辞めてしまうリスクの他にも、噂が社外に広まってしまうと採用活動にも支障が出てしまいますし、SNSで会社の誹謗中傷の書き込みがされて炎上トラブルを引き起こす可能性も出てきます。

会社のお金を使い込む

このタイプの問題社員は、交通費を水増し請求したり、経費の記録を改ざんして使い込んだり、会社の売上金を横領したりなど、会社に直接的な害を与えるタイプです。

はじめは少額のお金を使い込むだけだったとしても、不正を会社に摘発されないことを良いことに、どんどん横領するお金の金額が高額になっていき、会社としても黙認できないくらいの金額に膨れ上がってしまう恐れがあります。 他の社員に悪影響を及ぼす可能性もあるため、すぐにでも辞めさせたいタイプの問題社員と言えるでしょう。

問題社員を辞めさせる2つの方法

問題社員を辞めさせる方法は主に「退職勧奨」と「解雇」の2つです。この章では、それぞれの基本的な内容と知識を確認していきましょう。

退職勧奨

退職勧奨はその名前の通り、社員が自主的に辞めるように促す方法です。 本人の同意を得ての退職となるため、不当解雇として訴えられるトラブルにもなりにくく、解雇予告も必要にならないので、比較的自由に行うことが可能です。

ただし、やり方の度が過ぎてしまうと、退職強要とみなされて不当解雇に該当してしまいますし、違法になりますので注意して行ってください。

解雇

解雇とは、経営者による一方的な雇用契約解除のことをいいます。解雇にも3種類あり、「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」があります。

整理解雇とはいわゆる「リストラ」ですね。会社の経営上の都合によって社員を解雇することを言います。 問題社員の解雇においては普通解雇と懲戒解雇が該当します。懲戒解雇とは、会社の秩序を著しく乱した労働者に対し、懲罰的意味合いで行われる解雇のことです。普通解雇は、懲戒解雇や整理解雇には該当しない、やむを得ない事由があるときに行う解雇のことを言います。

どちらの解雇の方法をとる場合も辞めさせるには相応の理由と証拠が必要となりますし、就業規則の定めがあることや解雇予告をすることなどが法律で定められています。

問題社員を辞めさせる際に注意すべきポイント

すでにお伝えしたように、現在の日本において、社員を解雇するには厳しい規制がされていて、慎重かつ適切に進めていかなければ、不当解雇と判断されて会社が不利な立場にされてしまう恐れがあります。 そこでこの章では、問題社員を辞めさせるにあたって、注意すべきポイントを解説していきます。

就業規則に解雇事由についての記載はあるか

まず、問題社員を辞めさせる上での大前提として、就業規則に解雇事由についての文言が記載されているかと言うことを確認しましょう。 もし、就業規則に解雇事由についての記載がなければそれに該当するかどうかの判断すらできなくなり、懲戒解雇をすることは不可能に近くなってしまいます。

辞めさせたい社員がいるけれど就業規則に解雇事由についての記載がない!と言う場合は、問題社員への対応を行う前に、就業規則の整備を優先的に行うことが必要になってきます。

解雇事由に該当するか

解雇する際には、就業規則に記載されている解雇事由以外では、基本的には解雇が認められないということが法律で定められています。 そのため、問題社員の問題行動が解雇事由に該当するものなのかということを事前に確認することが大切です。

なお、解雇事由に該当するかどうかのとらえ方は普通解雇と懲戒解雇でも若干違ってきます。普通解雇に関しては、裁判所も特段の事情がある場合は解雇事由に該当していない場合の解雇も認める余地を残していますが、懲戒解雇については、懲戒処分の要件として懲戒事由をあらかじめ定めておくようにと法律で決められているため就業規則に記載がない、もしくは該当していない事由での解雇は認めらないのです。

解雇事由に該当する問題行動の証拠はあるか

問題行動が解雇事由に該当することが解雇するうえで必須になりますが、その証拠をそろえる必要もあることを頭に入れておきましょう。

・営業の外回り中に社用車で昼寝をしている

・交通費や経費を水増し請求して着服している

・パワハラやセクハラなどの問題行動を起こしている

・無断欠勤して恋人と遊園地に行っている

などの問題行動があったとしてもその証拠がなければ言い逃れされることは目に見えています。

問題社員についての証拠集めは探偵に素行調査を依頼することで掴むことができます。素行調査を経営者自ら行おうとされる方もいらっしゃいますが、素行調査は特殊な訓練を受けた調査員でも難易度の高いものなので、素人の方が行ってしまうと相手にバレてしまい、証拠隠滅を図られたり警戒されて証拠が掴めなくなってしまったりというリスクが大きくなります。 素行調査についてはプロの探偵に依頼することをお勧めします。

不当解雇として訴えられるリスクを把握できているか

問題社員を抱えている経営者の方の中には、できるだけ早く辞めさせたいからと無理やり解雇処分を進めようとされる方がいらっしゃいますが、不当解雇とされるリスクが大きいので絶対にやめましょう。

問題社員を辞めさせる際には、不当解雇として訴えられるリスクについてしっかりと把握しておくことが大切です。リスクを把握しておくだけでも解雇処分を慎重に行う意識を付けることができます。

具体的なリスクとしては、

・辞めさせたい問題社員を社員として復帰させなければならない

・解雇中の未払い分の賃金全額を支払わなければいけない

・不当解雇を行った企業として社会的評判が下がる

などです。

特に、最近ではSNS上で「●●株式会社はブラック企業だ」「●●会社から不当解雇をされた」などと書き込まれてしまい、ネット炎上のトラブルにつながることも珍しくないため、リスクとして把握しておかなければいけません。

解雇する前にできることはすべてやっているか

解雇を実際に行う前に、いきなり解雇しようとしていないか今一度確認してください。 解雇する前に、注意や指導、解雇よりも軽い懲戒処分を手順を踏んで行えているかどうか、やれることはすべてやれているかを確認しましょう。

つまり、解雇は「ありとあらゆる手段を尽くしてやれるべきことをすべて行って問題社員を改善させようと試みたが、これ以上他に解決策がなくどうしようもない場合の最終手段である」ということです。 不当解雇として訴えられないためにも、段階的に処分を行うことが重要なのです。

問題社員を辞めさせる具体的なステップ

たとえ会社に不利益をもたらしている問題社員であろうと、辞めさせ方を一歩でも間違えれば、不当解雇と判断されて、被害を受けているはずの会社が不利な立場に追いやられます。 ここでは、安全に問題社員を辞めさせるための具体的なステップについて確認してきましょう。

現状の把握

問題社員を辞めさせるにあたっては、まず現状の把握を行いましょう。 問題社員がどのような点で問題とされているのか、会社はこれまで問題社員に対してどのような対応を取ってきたのか、その対応で問題社員はどのように改善できたのか、できなかったのかなどを把握する必要があります。

どのような懲戒処分を行うのか決める際や今後の方針を決める際に、現状がわかっていないと判断ができないので、必ず行うようにしてください。

就業規則を確認する

問題社員を解雇するにしても、解雇よりも軽い懲戒処分を行うにしても、就業規則に該当事由があることが前提となります。 問題社員の行動に一致する該当事由がないのに処分を行ってしまうと違法となってしまう可能性があるので、あらかじめ就業規則を確認しておく必要があります。

また、就業規則の内容が社員にきちんと周知されていて、閲覧できる状態になっているかどうかも重要なポイントです。 就業規則の内容を問題社員を含めた全社員へ周知されていないと判断される場合、就業規則そのものが無効とされてしまいますので、それに基づく懲戒処分も無効となる可能性が高くなってしまいます。

段階的に懲戒処分を行う

問題社員をすぐにでも辞めさせたいと思っていたとしても段階的に処分を行っていくことが重要です。 まずは注意や指導を行い、それでも改善が見られない場合に懲戒処分を検討していきます。懲戒処分も軽いものから順に行っていくようにしましょう。

懲戒処分は、戒告、減給、降格、出勤停止など段階的に行えるようになっています。 もし問題行動に対して重すぎる懲戒処分を与えてしまうと、裁判で争った場合に無効とされてしまう可能性がありますので慎重に判断してくださいね。

退職勧奨する

すでに退職勧奨についてはお伝えしていますが、退職勧奨は解雇とは違って厳しい規制が特に設けられていません。そのため、退職勧奨で会社を辞めてくれれば、不当解雇だと訴えられる心配をする必要はありません。

ただし、無理やり退職勧奨を進めようとすると違法になる可能性もありますので、退職強要とならないように、あまり早い段階では退職勧奨を行わず、解雇を検討するくらいのタイミングで見計らって退職勧奨を行うようにするのがいいでしょう。

最終手段として解雇を行う

問題社員に対してありとあらゆる対処を講じてきたが、改善されずどうにもならないような状況に至ってはじめて解雇が有効と認められる可能性が高くなります。 ただし、解雇通知書の作成や解雇予告を行うことなどを忘れず、この段階になっても慎重に進めていくことを忘れてはいけません。解雇予告は原則として少なくとも解雇日の30日以上前に通知しなくてはならないと定められています。

まとめ|問題社員を確実に辞めさせるためには証拠の確保が重要

どれだけ会社として辞めさせたいと思っている問題社員であっても、簡単に解雇することはできないことはおわかりいただけたでしょうか。 会社は問題社員に対して、解雇を前提として対処するのではなく、改善を促す対応をしていく必要があります。

不当解雇として訴えられたくないのであれば、適切な手順で解雇手続きを進めていくこと、そして問題行動と言える確実な証拠を確保していくことが何より重要です。 問題社員についての証拠は探偵の素行調査で確保することができますので、辞めさせたいと思った時点でなるべく早めにご相談されるといいでしょう。